Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎盤・前置血管

(S560)

全妊婦を対象とした前置血管の出生前スクリーニング体制の構築

Prenatal screening of Vasa previa

水内 将人, 嶋田 浩志, 高田 さくら, 石岡 伸一, 齋藤 豪

Masahito MIZUUCHI, Hiroshi SHIMADA, Sakura TAKADA, Shinichi ISHIOKA, Tsuyoshi SAITO

札幌医科大学産科・周産期科

Dept. of Obstetrics, Sapporo Medeical University

キーワード :

【緒言】
前置血管は胎児血管が内子宮口上の卵膜を走行するものと定義され,出生前診断されなかった場合の児の周産期死亡率は56%,出生前診断が可能であった症例では97%が生存と言われており,児の予後改善のためには陣痛発来前の正確な診断が必須である.前置血管の出生前スクリーニング体制構築に関して我々が最近経験した症例を元に考察した.
【症例1】
38歳2経妊2経産.妊娠13週絨毛膜下血腫による性器出血認め切迫流産管理のため入院.妊娠14週,臍帯卵膜付着と診断.妊娠30週に経腟超音波にて内子宮口近傍の卵膜上を走行する胎児血管を確認し前置血管と診断した.妊娠35週NRFSのため緊急帝王切開術により分娩.
【症例2】
28歳0経妊0経産.IVF-ETにて妊娠成立.妊娠分娩管理目的に妊娠15週に当科紹介となる.低置胎盤あり外来経過観察中の妊娠34週,切迫早産スクリーニングのための経腟超音波にて,内子宮口上を走行する胎児血管を認め前置血管と診断.妊娠36週より入院管理,妊娠37週5日選択的帝王切開術により分娩.
【症例3】
30歳0経妊0経産.帰省分娩目的に妊娠27週当科紹介初診.低置胎盤の診断にて外来管理されていたが,妊娠29週の妊婦健診時の経腹超音波検査にて臍帯付着部位を改めて確認したところ内子宮口付近の卵膜付着であることを確認し,経腟超音波検査にて前置血管と診断.妊娠35週より入院管理,妊娠37週0日選択的帝王切開術にて分娩.
【考察】
近年の報告によると,前置血管の発生頻度は約2500分娩に1例であり,出生前の検出率は93%,特異度99%とされている.前置血管のリスク因子には,妊娠中期に低置胎盤・前置胎盤であった症例や子宮下部に臍帯付着部位の存在する症例,分葉胎盤,副胎盤,多胎妊娠,臍帯卵膜付着,IVF妊娠等があり,前置血管のハイリスク症例を中心としたスクリーニングが重要であることは言うまでもない.しかしハイリスク症例のみでは分娩開始前に全ての前置血管を診断することは難しい.前置血管の診断に関して,Society for Maternal-Fetal Medicine(SMFM)Consult Series, #37: Diagnosis and management of vasa previa(2015)には,「全ての妊婦に対してアルゴリズムを用いたスクリーニングが推奨される」と記載されており,ハイリスク症例のみではなく,全妊婦を対称としたスクリーニングが重要であると考える.妊娠30週前後での前置胎盤・低置胎盤のスクリーニング時には胎盤位置異常の確認に加え,必ず前置血管を念頭に「前置血管有り・前置血管無し」というチェックリストを用いることで,抜けのない前置血管スクリーニングが施行可能である可能性がある.当院においてスクリーニング体制を上記のように変更し,新しいチェクリストを用いた全妊婦に対する前置血管のスクリーニングを開始した.
【結語】
前置血管症例の予後は出生前診断されるか否かによって大きく異なってくる.偶発的な発見を期待するのではなく,「前置血管である」・「前置血管ではない」を診断しに行くという姿勢が,前置血管の診断率向上のためには必要であると考えている.