Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎盤・前置血管

(S559)

子宮の増大にともなって前置血管となった卵膜付着の1例

A case report of velamentous cord insertion developed to vasa previa with advancing gestation

中澤 悠, 長谷川 潤一, 高橋 由妃, 近藤 春裕, 鈴木 直

Haruka NAKAZAWA, Junichi HASEGAWA, Yuki TAKAHASHI, Haruhiro KONDO, Nao SUZUKI

聖マリアンナ医科大学産婦人科学

Obstetrics and Gynecology, St. Marianna University School of Medicine

キーワード :

【目的】
前置血管は,卵膜血管が内子宮口近くに存在するものであり,破水時や分娩中に胎児先進部の圧迫により血管が断裂するリスクが非常に高い.妊娠中の超音波診断と,帝切前に破水させないような管理が不可欠である.子宮下節の開大や妊娠子宮の増大に伴って,超音波検査で胎盤の位置が変化(migration)することが知られているのと同様に,臍帯付着部位や卵膜血管の子宮内の相対的位置が変化することがある.本報告では,妊娠中期に卵膜付着と診断されていたが,子宮の増大にともなって卵膜血管が内子宮口側に下降した一例を報告する.
【症例】
1回経産婦.当院へ里帰り分娩予定であった.当院に妊娠中期に分娩予約のため受診したときの超音波検査では,子宮後壁に胎盤があり,前壁に臍帯付着部を有する長い卵膜血管を持つ卵膜付着と診断した.経腟超音波では前置血管は指摘できなかった.妊娠29週,前医で頸管長短縮所見を認めたため,早めの里帰り分娩を勧められ,当院を受診した.胎盤と臍帯付着部位は前述の如くであったが,子宮中下部を走行する卵膜付着が内子宮口側へ下降していた.頸管長は15mmと短縮し,内子宮口,下節は開大した状態であり,経腟超音波検査では子宮下節上を走行する卵膜血管(前置血管)を描出した.子宮中下部に走行していた卵膜血管が,子宮の増大,卵膜の膨隆にともなって子宮下節に下降したと考えられた.児は破水なく予定帝王切開によって娩出し,経過良好である.
【考察】
妊娠中期に,宮下節が開いた状態でされた子宮下部の卵膜付着や前置血管が診断された場合は実際の位置と一致するが,前置胎盤の退縮によって前置血管となった例もあると考えられている.本症例では,子宮下節が閉じている状態で前置血管がないと診断したが,下節開大後にも前置血管が明らかになった.子宮下部の卵膜付着のmigrationは,妊娠子宮の増大よりも,子宮下節の開大という現象が大きく影響していると考えられる.子宮内腔の増大と子宮下節の開大にともなって卵膜は組織学的内子宮口側に押し広げられるため,卵膜上に乗っている卵膜血管は下節開大に伴って前置血管になり得ると考えられた.これは胎盤のmigrationとして知られる,内子宮口から離れていくメカニズムと異なると考えられた.以上のことから,前置血管の診断は子宮下節が開大した状態で行うことが望ましいと考えられた.妊娠の早い時期に前置血管の有無を診断し,管理することは重要であるが,しかし,本症例の如く,その後も注意深く観察しなければならないことも示唆された.