深津 満, 和田 恒哉, 山田 珠樹, 野田 愛司, 林 香月

Mitsuru FUKATSU, Tsuneya WADA, Tamaki YAMADA, Aiji NODA, Kazuki HAYASHI

¹一般社団法人岡崎市医師会診療課, ²あきしまクリニック消化器内科, ³名古屋市立大学大学院医学研究科消化器・代謝内科学

¹Clinical Departments, Okazaki City Medical Association Publish Health Center, ²Gastroenterological medicine, Akishima clinic, ³Department of Gastroenterology and Metabolism, Department of Public Health, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences

キーワード :

【目的】
厚生労働省の人口動態統計によると，日本における膵癌死亡者数は年間約3万人であり，2014年の調査では，肺・大腸・胃癌に次いで第4位である．膵癌のリスクファクターとして，慢性膵炎，糖尿病，遺伝的素因，肥満，喫煙などがあるが，膵臓の解剖学的位置関係や初期症状に乏しいことから早期膵癌の発見は未だ難しい．わが国の「膵癌診療ガイドライン」では，検診時の超音波検査（US）による膵癌の検出率は低く，費用対効果の点で問題はあるが，USはスクリーニングとして推奨され，主膵管（MPD）拡張は膵癌の間接所見として重要であるとされている．今回，MPD拡張をきたす諸因子について検討したので報告する．
【対象】
2012～2014年の3年間に腹部US，問診，身体計測，血圧測定，血液検査を同日実施した人間ドック受検者：124,454人のうち，重複受検者：62,984人を除外した61,470人（男性：32,078人，56.0±13.2歳，女性：29,392人，55.1±12.8歳）を対象とした．なお，重複受検者については最新受検日のデータを採用した．
【方法】
最大MPD径2mm以上をMPD拡張と定義した．MPD拡張をエンドポイントとし，喫煙習慣，性，年齢，飲酒習慣，肥満，高血圧，脂質異常，糖尿病との関連を多変量回帰分析を用いて横断的に調査した．なお，喫煙習慣については非喫煙，禁煙，喫煙者にカテゴリ分類し，喫煙者についてはブリンクマン指数（BI）により更に分類した．飲酒習慣については，日本酒1合，ビール500ml，ウィスキー60ml（エタノール量:20g相当）のいずれかを毎日摂取している者を毎日飲酒者とした．なお，統計ソフトはSPSS（ver.21.0 for Windows）を使用した．
【結果】
対象者の341人（0.6％，66.0±10.0歳）にMPD拡張を認めた．喫煙習慣とMPD拡張との関連では，非喫煙者と比較して喫煙者（BI＜400，400-599，600-799，≧800）でそれぞれ正の関連（OR: 2.32，2.19，4.12，2.13）を認め，禁煙者では関連を認めなかった．その他，男性は女性と比較して正の関連（OR:1.50）を認めた．加齢では45歳未満と比較して年齢（50-54歳，55－59歳，60－64歳，≧65歳）にそれぞれ正の関連（OR：2.90，4.24，4.39，11.92）を認めた．飲酒習慣では非飲酒者と比較して毎日飲酒者（エタノール量≧40g）で正の関連（OR:1.58）を認めた．高血圧ではそうでない者と比較して正の関連（OR:1.50）を認めた．肥満ではそうでない者と比較して軽度肥満者（BMI:25.0～29.9 Kg/m2）で負の関連（OR:0.68）を認めた．脂質異常ではそうでない者と比較して負の関連（OR:0.72）を認めた．糖尿病では関連を認めなかった．
【考察】
今回の検討により，MPD拡張と喫煙習慣とに有意な関連が認められた．しかし，禁煙者には関連が認められなかった．MPD拡張は膵癌発見の重要な所見であり，喫煙者では一層入念な走査が重要である．