長沼 裕子, 石田 秀明, 長井 裕, 渡部 多佳子, 大山 葉子, 小川 眞広, 伊集院 裕康

Hiroko NAGANUMA, Hideaki ISHIDA, Hiroshi NAGAI, Takako WATANABE, Yoko OHYAMA, Masahiro OGAWA, Hiroyasu IJYUIN

¹市立横手病院消化器科, ²秋田赤十字病院超音波センター, ³NGI研究所, ⁴秋田厚生医療センター臨床検査科, ⁵日本大学病院消化器肝臓内科, ⁶天陽会中央病院内科

¹Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, ²Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ³New Generation Imaging Laboratory, ⁴Department of Medical Laboratory, Akita Kousei Medical Center, ⁵Department of Gastroenterology and Hepatology, Nihon University Hospital, ⁶Department of Internal Medicine, Tenyoukai Central Hospital

キーワード :

【はじめに】
門脈ガスのUS所見は①B-modeで門脈内を移動する微小な点状高エコー，②カラードプラ（CD）でカラーの門脈外への不規則なはみ出しを示す火焔状所見，③FFTでドプラ波形上振り切れる信号，とされている．我々は門脈ガスのCD所見はプローブに向かう単一な赤色であるのに対し，FFTでは振り切れる信号という一見矛盾した表示であることに注目し，この点についてさらなる検討を加え，若干の知見を得たので報告する．使用装置：東芝社製Aplio 500，XG，GE社製LOGIQE9，日立アロカ社製Preirus．
【対象と方法】
A）臨床例の検討：USで門脈ガスと診断した16例（男性12，女性4，年齢30-91（平均62.1）歳，疾患の内訳は腸炎7例，非閉塞性腸管虚血2例，イレウス1例，胃拡張1例，外傷1例，胆管炎1例，糖尿病1例，肝硬変1例，便秘1例）を対象とした．i）CD所見（流速表示），ii）門脈内からえられたFFT波形，を検討した．B）実験での検討：脱気水をいれた水槽内に直径約14mmの穴をあけたファントムをおき，気泡（直径約600-900μm）をファントムの下方から一個ずつ通し，上記のi）, ii）について検討した．さらに気泡の量を徐々に増やしてFFT所見の変化を観察した．iii）水槽内でドプラのサンプルボリューム内を細い針金を瞬時に通過させ，得られたFFTを検討した．iv）水槽内でサンプルボリューム内に木綿糸を長く通過させ，得られたFFTを検討した．
【結果】
A）i）16例全例で赤系の均一な色調で，火焔状所見を呈していた．ii）FFT波形を検討できた14例中全例で振り切れる線状の信号を呈した．B）i）単色（赤系）を呈し，カラーモザイクは呈さなかった．カラーシグナルは方位方向に広がりを示し，カラーにおけるサイドローブアーチファクト（SL）と考えられた．気泡の量を増やし連続して通過させるようにすると定常流の波形を示した．ii）線状の振り切れる信号であった．iii）針金が瞬時に通過した場合は細い線状のFFT信号になった．iv）木綿糸を長く通過させた場合は定常流波形と同様のFFT信号を呈した．
【考察】
気泡は小さくとも反射信号が強く，SLも目立つ傾向にあり，気泡によるカラーのSLが門脈血流信号に混在することにより門脈外への不規則なはみ出し現象となり，火焔状所見として表現されると考えられた．FFTではサンプル幅を通過する反射体の周波数を計算するために128～256回の送信時間を必要とし，その間，サンプル幅内を気泡一個のみが通過するような場合には，データ数が足りず，周波数偏移を決定できないため，線状の振り切れた信号になることが考えられた．
【文献】
1. Ijuin H, Tokitoku D, Atsuchi Y, et al. Flaming portal vein as a new color Doppler sign of portal gas: report of two cases. J Med Ultrasonics 2008; 35: 119-123.
2. Watanabe T, Ishida H, Komatsuda T, et al. Portal gas in a diabetic patient under pharmacotherapy with as alpha-glucosidase inhibitor: report of a case with emphasis on US findings. J Med Ultrasonics 2009; 36: 207-210.