Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管2

(S510)

当院のエルシニア腸炎における腹部超音波検査を含めた検討

The study of ultrasonography in Yersinia enteritis in our institute

宮田 恵理

Eri MIYATA

順天堂大学小児科

Pediatrics, Juntendo University

キーワード :

【はじめに】
Yersinia属菌は,0-4℃の低温培養で増殖するグラム陰性嫌気性桿菌で,ヒトへ感染を引き起こすのは主にY.pestis,Y.enterocolitica(以下Ye),およびY.pseudotubercurosisである.このうち,Ye腸炎は先進国の細菌性腸炎の約1%を占めるといわれ,腸間膜リンパ節腫大や終末回腸炎を引き起こす.腹部超音波(US)検査でYe腸炎の腸間膜リンパ節腫大に関して評価した報告は散見されるが,Ye腸炎と他の細菌性腸炎のUS所見を比較した報告は少ない.今回,我々は両者の臨床像とUS所見の比較を行い,加えてUSを先行し施行することがYeの検出率に及ぼした影響について検討した.
【対象と方法】
対象は2014年1月から2015年2月の調査期間における,便培養から起因菌の検出された細菌性腸炎の患児で,Ye腸炎8例(平均9.66±3.26歳)と他の起因菌による細菌性腸炎(non-Ye群)16例(平均9.00±3.38歳)である.これらを後方視的に検討し,2群間における①臨床像と血液検査,②USにより評価した回盲部周囲リンパ節(以下,C-LN)の最大径と4-5個のC-LNの長短比と終末回腸壁厚それぞれの平均値,および回盲部周囲の高エコー輝度帯(終末回腸や回盲部周囲の肥厚腸管と明瞭に区別できる4mm以上の高エコー帯)の有無,③USを先行して実施したことによる過去5年分のYe検出率との相違について比較検討した.超音波診断装置はHI VISION Preirus(Hitachi Aloka Medical, Japan)とVivid E9(GE Healthcare, UK)を使用し,探触子は8-12MHzの高周波リニアプローベを使用した.
【結果】
①Ye群の男女比は5/3,白血球数とCRPの平均はそれぞれ13750±5352 /μL,5.6±3.1 mg/dLで,CRPはYe群が有意に高値であった(p=0.035).②Ye群のUS像は終末回腸の浮腫性壁肥厚と回盲部リンパ節腫大を全例に認め,リンパ節の平均最大径はYe群とnon-Ye群それぞれ,11.2±3.0mm,11.5±4.7mmで有意差はみられず(p=0.810),リンパ節の長短比はそれぞれ1.52±0.16,1.76±0.29でYe群の回盲部リンパ節は有意に小さく,球状に近い形状を呈していた(p=0.030).高エコー輝度帯の検出率はそれぞれ75.0%,17.6%で,Ye群における高エコー輝度帯の出現率は有意に高かった(p=0.010).平均の終末回腸壁厚はそれぞれ6.0±1.5mm,4.1±1.3mmとYe群は終末回腸壁が有意に厚かった(p=0.020).また,③検討期間中のYe検出率は過去5年間の成績と比較し,増加傾向がみられた.
【考察・結語】
Ye腸炎では,他の起因菌による細菌性腸炎よりも回盲部リンパ節が球状に近く,終末回腸壁厚は有意に厚く,回盲部周囲高エコー帯の検出率が高かった.これらのUS所見をもとに細菌検査室への情報提供を行ったことで,Ye検出率の増加がみられたことは,今後,USがYe腸炎の的確な診断を行うにあたり,有用なツールとなることを示唆するものと思われた.