Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 消化器
消化管1

(S509)

当院における胃アニサキス症10例の背景的特徴について

Characteristics of 10 cases of gastric anisakiasis at our hospital

森 貞浩, 福澤 ちえみ, 稲見 奈津子, 町田 直子, 井上 知彦, 西山 保比古, 中川 潤一

Sadahiro MORI, Chiemi FUKUZAWA, Natsuko INAMI, Naoko MACHIDA, Tomohiko INOUE, Yasuhiko NISHIYAMA, Junichi NAKAGAWA

1相模原赤十字病院生理機能検査課, 2相模原赤十字病院外科, 3相模原赤十字病院内科

1Department of Physiological Laboratory, Sagamihara Red Cross Hospital, 2Department of Surgery, Sagamihara Red Cross Hospital, 3Department of Internal Medicine, Sagamihara Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
近年,超音波検査(以下US)にて胃を含めた消化管病変の評価を行うことも定着しつつある.今回,USにて胃アニサキス症を疑い得て診断された10例につき,その臨床的背景を調べたところ,US施行側の観点から若干の知見を得たので報告する.
【目的】
特にUS施行時の問診で重要であった事柄を把握すること.
【対象・方法】
2012年2月~2014年12月の間に腹痛精査依頼のUSで胃アニサキス症を疑い,その後内視鏡検査で診断され,背景の把握が可能であった10例につき,年齢,性別,主症状,発症までの時間,発症時期,US所見,内視鏡所見,原因魚類,調理法について調査した.
【結果】
年齢は34歳~70歳(平均49.3歳),女性が若干多かった.症状出現は摂取から約4時間~最大26時間後で心窩部痛や腹痛が多く,一部に強い嘔気・嘔吐が見られた.発症はほぼ通年で見られ,原因魚類はイナダ,アジ,サバ,サンマ,ヒラメ,タイ,イカと多種,非凍結材料で多くは自宅で処理したものであった.US所見は,いずれも類似し,偏側性あるいはびまん性の第三層までの浮腫性肥厚を示し検出部位はいずれも体中部~前庭部であった.内視鏡では浮腫・発赤が主で,一部の例では関連不明の十二指腸までのびらんも認めた.超音波所見と内視鏡所見及び検出時点での虫体発見部位が一致したのは10例中5例で,嘔気症状の2例は,噴門に虫体を認めた.対象例数が少なく評価は限定的であるが,嘔気症状と噴門に虫体がいたことの有意性を疑い,可能な限り統計学的処理を試みたが,統計的には支持されなかった(Fisher検定P値0.07).しかしながら,所見範囲が広いことと噴門に虫体がいたことは嘔気と弱い関連がみられた.
【考察】
いくつかの報告では原因魚類や発生時期には地域差があるものの一定の傾向があるとのことだが,今回は多種に亘り,魚種によらず,むしろ素人が自宅で捌くことが多い地域性と調理法に主要因があると思われた.US所見においてはAGML様所見は常にアニサキス寄生の可能性を含み,また,強い嘔気を伴う腹痛例で小腸や大腸に画像所見がなく,アニサキス症を除外できない場合には,特に噴門部~上部の寄生・肥厚を疑い検索することも意義があると考えた.
【結語】
USで胃アニサキス症を疑う場合,実質的には壁の浮腫所見と問診で殆ど判断されると思われるが,問診の際は魚の種類にかかわらず,調理法および非凍結材料の可能性の有無について注意深く訊く必要があると思われた.また,強い嘔気を伴う腹痛ではアニサキスの胃噴門部寄生も考慮すべきかもしれない.