Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 循環器
症例 腫瘍

(S495)

長期の三尖弁閉鎖不全によりうっ血肝を背景とした若年性肝細胞がんの一例

A case of juvenile hepatocellular carcinoma based on the liver congestion due to a long term tricuspid regurgitation

黒澤 毅文, 相澤 芳裕, 松本 直樹, 齋藤 佑記, 山上 裕晃, 小川 眞広, 松岡 俊一, 森山 光彦, 平山 篤志

Takafumi KUROSAWA, Yoshihiro AIZAWA, Naoki MATSUMOTO, Yuuki SAITO, Hiroaki YAMAGAMI, Masahiro OGAWA, Shunichi MATSUOKA, Mitsuhiko MORIYAMA, Atsushi HIRAYAMA

1日本大学医学部附属板橋病院内科学系循環器内科学分野, 2日本大学医学部附属板橋病院内科学系消化器肝臓内科学分野

1Division of Cardiology, Department of Medicine, Nihon University Graduate School of Medicine, 2Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine, Nihon University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
先天性心疾患患者では,機能心室が一つしかない場合Fontan手術が必要となる.Fontan手術は上・下大静脈を肺動脈にバイパスする機能的修復であり,術後は体静脈圧が上昇することが多く,さらに肝小葉内の中心静脈に圧負荷が加わり,うっ血肝を起こすと言われている.また,近年はFontan術後にうっ血肝,肝線維化,肝硬変,肝細胞がんなどの合併も報告されている.
【症例】
患者は36才の男性,生後4か月で心室中隔欠損を指摘,1歳時に感染性心内膜炎および三尖弁閉鎖不全症を指摘された.10歳で心室中隔欠損および三尖弁閉鎖不全症に対して手術を施行され,その際に輸血を受けた.その後11歳時にC型肝炎ウイルス(HCV)陽性が判明した.32歳時,C型肝炎精査のため腹部超音波検査を施行,肝臓のS6に60mm大の類円形で内部が不均一な低エコーの腫瘍を認め,カラードプラ超音波検査では腫瘍にbasket-like信号を認めた.心臓超音波検査では,左室収縮能は正常だが,下大静脈拡張および呼吸性変動低下,両心房拡大,中等度~高度三尖弁逆流を認めた.肝細胞癌(HCC)に対しては肝切除を施行した.組織学的所見はtrabecular typeの中分化型HCCであった.門脈,肝動脈または胆管の脈管浸潤は認めず,一部の非ガン部組織は中等度のうっ血,線維化に関して結節状構造がみられ肝硬変状態(F4)を呈していたが,肝細胞のバルーニングや脂肪肝はなかった.術後はC型肝炎ウイルス(HCV)に対してペグインターフェロン+リバビリン+シメプレビル療法を行い完全寛解し,再発なく経過した.その後,心臓超音波検査では,下大静脈の拡大,右心房・右心室拡大,中等度から高度の三尖弁逆流症に加え右室容量負荷による心室中隔奇異性運動が出現し,僧帽弁輪の拡張早期速度16.9cm/sから11.0cm/s,7.2cm/sへ経時的に低下を認めた.当院受診以前の診療記録では22歳時に中等度三尖弁逆流症および右室拡大が指摘されていた.左室拡張障害が出現した原因は,長期間の三弁逆流症により右心室負荷・右室機能障害を起こし心室間相互作用による影響と考えた.右心不全症状はなく,代償性右心不全の状態であり薬物介入および三尖弁逆流症に対する侵襲的治療も検討が必要な症例であった.
【考察】
HCCは,B型肝炎,C型肝炎とアルコール性肝障害と強く関係している.最近の報告では,うっ血肝から生じるHCCの発生率は32.0%と示されている.日本ではHCCを呈する患者の平均年齢が男性の66.4歳と女性の69.9歳であり,我々の患者は非常に若くHCCを発症したと言える.本例は三尖弁逆流症が長期間続き,慢性的な右心負荷により体静脈上昇し,Fontan循環と類似した状態となりうっ血肝を起こしたと考えられる.肝臓の非がん部組織でも中等度のうっ血や高度な線維化を認めた.HCV罹患が背景にあるが,若年性のHCCを起こした原因としてうっ血肝による影響も関与した可能性がある.また,長期にわたる右心室負荷や右室機能障害により左室拡張障害まで起こす患者には超音波検査で肝臓を評価し肝合併症を早期に発見に努める必要がある.