Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 循環器
心房機能

(S493)

発作性心房細動患者における電気的肺静脈隔離術後の心房細動再発リスクについて

The risk of atrial fibrillation recurrence after pulmonary vein isolation in patients with paroxysmal atrial fibrillation

田中 梨紗子, 杉本 邦彦, 伊藤 さつき, 高橋 礼子, 東本 文香, 神野 真司, 石井 潤一, 高田 佳代子, 山田 晶, 尾崎 行男

Risako TANAKA, Kunihiko SUGIMOTO, Satsuki ITO, Ayako TAKAHASHI, Ayaka HIGASHIMOTO, Shinji JINNO, Jyunichi ISHII, Kayoko TAKADA, Akira YAMADA, Yukio OZAKI

1藤田保健衛生大学病院臨床検査部, 2藤田保健衛生大学循環器内科

1Clinical Laboratory, Fujita Health University Hospital, 2Cardiology, Fujita Health University

キーワード :

【はじめに】
電気的肺静脈隔離術(PVI)は心房細動,特に発作性心房細動(PAF)に対する有効な治療法として確立している.しかし,再発をきたす症例も存在し,再発のメカニズム解明には様々な検討がなされている.第89回学術集会で,PAFの症例では同年代の健常者と比較し,A波が有意に低下しており,E/A比は高値となるが,左房圧(LAP)には有意な差は認めず,拡張能の評価には注意が必要であること,さらにPAF症例では,両心房の均一な拡大を認め,PAF症例を健常者との鑑別に有用であることを発表した.今回は左室流入波形及び心房の大きさがPVI後の心房細動再発に関連しているか検討したので報告する.
【目的】
PAF患者におけるPVI後の心房細動再発の有無,その患者背景,心エコー検査所見,再発因子について後ろ向きに検討した.
【対象】
PVI施行時にLAPを記録し得たPAF患者72例を対象とした(平均年齢65歳).対象をPVI後90日間での再発有無で2群に分け,両群間を比較検討した(再発有り群(P群)(8例,11.1%),再発無し群(N群)(64例)).再発の定義は,PVI後に施行した12誘導心電図検査又はホルター心電図検査にて,心房細動発作の指摘があった場合とした.
【方法】
PVIで記録したLAP,及びPVI前に施行した経胸壁心エコー検査(TTE)での左室拡張機能の指標(E波,A波,E/A,e’,E/e’),心房の大きさ(左房前後径(LA),心尖部四空像での右房径(RA4C)と左房径(LA4C),左房容積係数(LAVI))を両群間で比較した.再発因子については,カイ二乗検定およびロジスティック解析を用いて検定を行った.何れの検討も危険率5%未満を統計学的に有意とした.
【結果】
LAPはN群とP群間に有意差は認められず,両群共に明らかなLAPの上昇も認めなかった(7.3±4.0mmHg vs 6.8±3.4mmHg,p=0.7175).TTEで計測した各指標においては,LA4C(38.5±6.2mm vs 45.3±5.9mm,p<0.01),LA/RA(1.21 vs 1.39,p<0.01)はN群と比較してP群で有意に高値であり,A波(62.7cm/sec±21.6 vs 43.0±11.0cm/sec,p<0.05)はN群と比較してP群で有意に低値であった.LAP,年齢,性別,検査時心拍数,TTEでの各計測項目を変数とし単変量解析を行った結果,LA4C(OR:0.85,%CI: 0.7419-0.9574,p<0.01),LA/RA(OR:0.04,%CI: 0.001-0.916,p<0.05),A波(OR:1.11,%CI: 1.034-1.120,p<0.01)が危険因子として残った.これらを独立変数として多変量解析を行ったところ,A波が心房細動再発の独立した予測因子であることが示された.A波について,ROC解析によりcut-off値を49.0cm/secと設定すると,感度87.5%,特異度75.0%でPVI後の心房細動再発が予測可能であった.
【考察】
P群とN群間ではLAPの有意な差は無く,両群とも正常範囲内に留まることから,LAPはPVI施行後における心房細動発作の再発には関与していない可能性が示唆された.前回の報告で,PAF群では正常群に比べA波が有意に減高していたと報告した.また,今回の検討では,A波が心房細動再発の予測因子であると示された.以上から,A波の減高は心房筋の収縮力低下を反映し,且つPVI施行後の比較的短期間での心房細動再発を予測する因子として有用であると考えられた.心房細動発作による心房筋の収縮力低下が,心房の活動電位に何らかの影響を及ぼしているのではないかと推察された.