Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 循環器
症例 心筋症1

(S472)

拡張型心筋症様の両心不全を合併した甲状腺クリーゼの一例

A case of the thyrotoxic crisis with cardiomyopathy-like bi-ventricular failure

上間 貴子, 安 隆則, 巴 崇, 河邉 篤彦, 上野 明日香, 石川 まゆ子, 下山 正博, 堀江 康人, 杉村 浩之

Aysuko UEMA, Takanori YASU, Takashi TOMOE, Atsuhiko KAWABE, Asuka UENO, Mayuko ISHIKAWA, Masahiro SHIMOYAMA, Yasuto HORIE, Hiroyuki SUGIMURA

1獨協医科大学日光医療センター心臓血管内科・腎臓内科, 2獨協医科大学日光医療センター循環器内科

1Cardiocascular, Nikko Medical Center, 2Cardiocascular, Nikko Medical Center

キーワード :

【はじめに】
バセドウ病患者の約6%が心不全を合併すると言われているが,バセドウ病患者に合併する心不全の多くは高心拍出性心不全と言われている.しかし基礎心疾患がないバセドウ病患者に,拡張型心筋症様の左室収縮不全を呈する低心拍性心不全もしばしば散見され,その90%は頻脈性心房細動を有する.まれに洞性頻脈でも収縮不全を起こす事が報告されており,これは慢性的な頻拍による心筋症以外にも,甲状腺ホルモンによる直接的な中毒作用が有る事も示唆されるが,未だ機序が不明な部分も多い.今回,甲状腺クリーゼで洞性頻脈を呈し,拡張型心筋症様の両心不全を合併した一例を,経時的に心エコー図検査を試行し得たので若干の文献的考察を加えて報告する.
【症例】
47歳,女性
【現病歴】
来院1か月前に湿性咳嗽,慢性的な下痢,手指振戦を主訴に近医を受診,バセドウ病の診断でメルカゾール5mg /日の内服が開始になったが,症状は残存している状態だった.来院日の夜間,徐々に呼吸困難が出現,起坐呼吸となり当院へ救急搬送となった.来院時の血圧は174/96 mmHg,心拍数は140 /分・不整なし,体温37.6℃,Satは10 L酸素投与下で90%前後であった.起坐呼吸,冷や汗を認め不穏状態であった.心音でⅢ音と心尖部を最強点とするLevine4度の収縮期心雑音を聴取した.心電図検査は洞性頻脈で,心拍数102 /分,V1からV4で陰性T波,心房負荷・左室負荷所見を認めた.胸部レントゲンでは心拡大,うっ血,胸水を認め,心エコー図検査ではびまん性に壁運動低下し,左室駆出率は25%,右室の壁運動も高度に低下していた.また僧房弁後尖のtetheringで中等度僧房弁逆流を呈し,全周性に心嚢液貯留も認めていた.血液検査ではF-T3 3.97 pg/ml,F-T4 2.36 ng/dlと甲状腺ホルモンは軽度上昇し,TSHは0.06μIU/ml以下と低下していた.経過と症状より,甲状腺クリーゼによる両心室収縮不全を合併したうっ血性心不全と診断し,全身管理で利尿剤,血管拡張薬,慎重にβblockerを投与し,抗甲状腺薬でチアマゾール30 mg/日,ヨウ化カリウム50 mg/日,相対的副腎不全予防のためにヒドロコルチゾン100 mg/8時間毎で投与した.治療に反応は良好で,入院4日目には心不全症状は改善し,心エコー図検査も左室駆出率は55%,右室駆出率も44%(解析:TomTec Image Arena)まで改善していた.造影MRIでは遅延造影効果は認めず,可逆性の心筋障害と考えられた.
【考察】
甲状腺クリーゼは複数の臓器に甲状腺ホルモンが過剰に作用し,生体の代償機構が破綻し,多臓器不全に陥る疾患である.日本甲状腺学会の全国調査によると甲状腺クリーゼまたはその疑いの発症頻度は年間10万人あたり0.2人と報告されている.カテコラミン感受性が亢進し,心筋の過収縮と頻脈を来し,抵抗血管が拡張,シャント血流が増え,高拍出状態となるが,最終的に心筋疲弊で低心拍出性心不全を来す.その他甲状腺ホルモンによる直接的な心筋障害の仮説もあるが,未だ機序は解明されていない.また甲状腺機能亢進症と肺高血圧症の関連もしばしば報告され,右心不全発症の誘因の一つと考えられている.死亡率が約10%と予後不良の疾患であるが,重症心不全例であっても可逆性変化であることが多いため急性期からの積極的な抗甲状腺薬と血行動態の早期是正が,生命予後に関して極めて重要である.今回は甲状腺クリーゼで,両心不全を合併したものの,甲状腺ホルモン,心拍数の是正と共に良好な経過を辿った.その経過に若干の文献的考察を加えて報告する.