Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 循環器
症例 心筋症1

(S470)

超音波検査での心機能低下を契機に診断された褐色細胞腫の小児例

A pediatric case of pheochromocytoma diagnosed by echocardiographic demonstration of decreased left ventricular systolic function

井上 俊, 南 孝臣, 岡 健介, 鈴木 峻, 松原 大輔, 古川 理恵子, 小谷 和彦, 森本 哲, 山形 崇倫

Shun INOUE, Takaomi MINAMI, Kensuke OKA, Shun SUZUKI, Daisuke MATSUBARA, Rieko FURUKAWA, Kazuhiko KOTANI, Akira MORIMOTO, Takanori YAMAGATA

1自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科, 2自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児放射線科, 3自治医科大学医学部臨床検査医学

1Department of Pediatrics, Jichi Children's Medical Center, 2Department of Radiology, Jichi Children's Medical Center, 3Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University

キーワード :

【症例】
10歳,女児
【家族歴】
同胞1名中,第1子,家族に高血圧なし.
【現病歴】
2年前から発汗が目立つようになり,3か月前から頭痛・嘔吐が出現した.症状が増悪し,頻度も増加したため,近医を受診した.142 /分の頻脈を認め,心臓超音波検査で心機能低下と心筋肥厚を指摘され,心筋症の疑いで当科を紹介受診した.受診時に自動血圧計での血圧測定が難しく,3種類の血圧計と手動測定を用いて確認したところ,右上肢167/131 mmHg,右下肢163/117 mmHgと著明な高血圧(上下肢差なし)を認めた.高血圧症の精査で当科に入院した.
【入院時所見】
身長128.7 cm(-1.4SD),体重20.9 kg(-1.8SD).脈拍119 /分.意識清明,皮膚湿潤.四肢に強い冷感.橈骨動脈拍動は弱く触知難.心雑音なし.腹部は平坦,軟で,肝・脾は触知せず.下腿に浮腫なし.神経学的異常なし.
【検査所見】
胸部エックス線写真ではCTR44%と心拡大なし.心臓超音波検査ではEF 47.2%と低下し,左室拡張末期径は43.7 mm(117%of Normal)と軽度拡大していた.中隔は7.08 mm(127%of N),拡張期後壁は7.4 mm(126%of N)で求心性肥大を認めた.心電図は洞調律で,左室肥大なかった.腹部超音波検査では,強い血流信号が分布する左副腎腫瘤が描出された.また,123I-MIBGシンチで左副腎の取り込みがあり,血中カテコラミン値の著明高値をあわせて,褐色細胞腫と診断した.
【入院後経過】
入院後から降圧目的でニカルジピン塩酸塩を静注で開始し,入院3日目からαブロッカー(プラゾシン)を0.25 mg/dayから併用開始した.入院5日目からは,よりα1受容体への選択性が高いドキサゾシンへ内服変更した.ドキサゾシンは0.5 mg/dayから開始し,徐々に10 mg/dayまで増量した.降圧薬開始51日後,血圧が安定しているのを確認し,左副腎腫瘍摘出術を施行した.入院時と術後のカテコラミン(アドレナリン,ノルアドレナリン,ドーパミン)は,それぞれ,1353→33 pg/ml,10627→521 pg/ml,1107→218 pg/mlに低下した.術後2日間はカテコラミン静注を要したが,経過良好で心機能も回復し,術後8日目に退院した.病理診断は褐色細胞腫であった.
【考察】
本邦の小児褐色細胞腫の発生頻度は,小児がん学会全数把握事業によると,2009年の全小児がん患者2095例中1例(0.048%),2010年:1/2065例(0.048%),2011年:3/1802例(0.17%)と極めてまれである.本例のような腫瘤径の大きな例はさらに少ない.しかし,成人症例も含めた「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班調査(2009年)では,悪性は11%,多発性は12.7%に認められるため,的確に診断して治療する必要がある.また,褐色細胞腫は高血圧の鑑別に常に考慮される疾患であるが,本例のように血管収縮によりカフの圧力が血圧に打ち勝てず,血流を遮断しづらいため正確な血圧測定が難しい.加えて,心臓超音波検査で心機能低下と心筋肥厚を認めた時には持続的な高血圧の存在が示唆される.
【結語】
心臓超音波検査は褐色細胞腫の診断契機の一助になると考えられた.