Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 工学基礎
生体作用・ファントム

(S467)

音響放射力インパルスが肺に及ぼす影響-ウサギを用いた動物実験-

The effect of acoustic radiation force impulse on rabbit lung tissue

高山 法也, 笹沼 英紀, 利府 数馬, 高野 わかな, 新田 尚隆, 石黒 保直, 秋山 いわき, 谷口 信行

Noriya TAKAYAMA, Hideki SASANUMA, Kazuma RIFU, Wakana TAKANO, Naotaka NITTA, Yasunao ISHIGURO, Iwaki AKIYAMA, Nobuyuki TANIGUCHI

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学消化器・一般外科, 3同志社大学超音波医科学研究センター, 4産業技術総合研究所健康工学研究部門

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University, 2Department of Surgery, Jichi Medical University, 3Medical Ultrasound Research Center, Doshisha University, 4Health Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Tecnology

キーワード :

【背景】
音響放射力インパルス(ARFI:Acoustic Radiation Force Impulse)を利用した超音波は肝臓の硬さや乳癌の質的診断をするために既に臨床現場で広く利用されている.しかしながらARFIでは,診断用超音波と比較して持続時間が長い高強度のパルス波を使用するため,一定条件下での照射で組織破壊や有意な温度上昇などが危惧されてきた.このため我々はARFIの生体組織への影響を確認する動物実験を行い,心臓の不整脈を誘発することや肝臓で温度上昇を来すことを報告してきたが,この過程で隣接する肺に間接的な傷害が及ぶことを見出した.今回,ARFIの肺への影響を確認するため,4羽のウサギを用い経肝的に肺にARFIを照射する実験を施行した.
【方法】
ウサギ(日本白色,オス,3kg)を全身麻酔科に仰臥位とし,呼吸コントロールのため気管切開を施行,気管チューブを留置した.腹部を除毛し,超音波診断装置(フクダ電子UF-400AX)にて腹部体表の肋弓下から肝臓を通して肺表面を描出し,照射の位置を決めた.次に凹面振動子(中心周波数:2.5MHz,口径:25mm,焦点距離:34mm)を角度と方向を合わせて同じ場所に固定し,照射を行った.照射の条件はMechanical Index(MI):0.62~0.80,パルス幅:10 ms,照射回数:30回,照射間隔:5s,照射距離(振動子から肺表面までの距離):24~32mmとした.安楽死後,両肺を摘出し病理学的評価を行った.
【結果】
4例とも気胸や血胸は認めなった.肺の肉眼所見としてはそれぞれ照射した部位に一致して肺表面にred spot(3~7 mm)を認めた.病理組織所見としてはHE染色にて同部位の胸膜直下にalveolar hemorrhageの所見を得た.胸膜の損傷は認めなかった.熱損傷の有無については評価できなかった.
【考察】
これまで動物実験において肺や腸管などのガスを含む組織では従来の診断用超音波のレベルでも損傷の報告がなされており,その発生機序としては機械的作(キャビテーション)による影響が大きいと考えられている.現在臨床応用されている超音波診断装置はキャビテーション発生の観点から,米国FDAの認証基準としての一つとしてMI値1.9以下で運用されている.しかしながらARFIを伴う超音波では従来の診断用超音波と比較して,この機械的作用がどの程度増強されるかについてはまだ明らかにされていない.ARFIを伴う超音波はパルス幅が長いことや肺表面で位相反転を起こす可能性があることなどにより,従来の診断用超音波よりもさらに低いMI値で肺損傷を来す可能性がある.ARFIエラストグラフィーでは肝臓や乳腺を対象とした場合,隣接する肺が照射野に入る可能性があり,その安全性については今後も動物実験により検証していく必要がある.また,本実験では照射ポイントを超音波診断装置Bモードで描出し,角度と方向を合わせてプローブを振動子に置き換え照射している.今後,Bモード表示しながらARFI照射可能なイメージング装置を開発し,照射ポイントが障害部位と確実に一致しているか,更に検証していく予定である.
【結語】
本動物実験からARFIを伴う超音波により肺胞出血を来すことが確認された.ARFIを伴う超音波は従来の診断用超音波とはその性質が大きく異なるため,肺が照射野に入る場合においては肺損傷の可能性があることも念頭に置き,今後も動物実験を通して生体作用について検証していく必要がある.