Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 工学基礎
エラストグラフィ

(S454)

慢性肝炎の組織構造変化が粘弾性評価に及ぼす影響

Effect of tissue structural changes in chronic hepatitis on evaluation of liver viscoelasticity

藤井 志桜里, 近藤 健悟, 浪田 健, 山川 誠, 椎名 毅

Shiori FUJII, Kengo KONDO, Takeshi NAMITA, Makoto YAMAKAWA, Tsuyoshi SHIINA

1京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2京都大学人間健康科学系(大学院医学研究科)

1Graduate School of Medicine, Kyoto University, 2Faculty Consort of Human Health Sciences, Kyoto University

キーワード :

【目的】
近年では慢性肝炎における肝線維化の進行に伴い組織弾性が増加することから,肝線維化診断にせん断波速度計測が用いられているが,生体組織は粘弾性特性をもつため,弾性のみではなく粘性も評価することで肝線維化の進行度評価の精度向上が期待されている.しかし,粘性推定に用いられるせん断波速度分散は,粘性だけでなく微小組織構造によっても影響を受ける.本報告では,せん断波速度からより定量的に肝線維化の進行度を評価するために,肝線維化の進行に伴う肝組織構造変化を表したモデルに対してせん断波が伝搬する様子をシミュレーション解析し,組織構造変化がせん断波速度分散に与える影響を評価する.
【方法】
40 mm×40 mmの2次元平面を想定し,その中に肝小葉を中心点間距離が1 mmとなるように配置し,各肝小葉に対しポテンシャル関数を割り当て,正常肝構造モデルを作成した.なお,実際の組織構造に近づけるため,中心点の位置とポテンシャル関数の最大値は乱数を用いてゆらぎを与えた.次に,肝線維化の進行過程を模擬するために,ランダムに選んだ中心点と隣接する点を結合させ,中心点の数が配置した数の半分となったところで進行ステージが1つ進んだものと考えた.弾性率分布に関しては,平均ヤング率が市販のせん断波速度計測装置(FibroScan)で計測された実測値に近くなるように,各中心点におけるポテンシャル分布の最大値に従いヤング率分布を設定した.なお,今回のモデルでは,組織構造変化によるせん断波速度分散のみを評価するために,粘性は0とした.せん断波伝搬シミュレーションでは,モデルの端から平面波状のせん断波を発生させ,得られた粒子速度波形に対してフーリエ変換を行い,各周波数において2点間の位相差を各画素で導出することでせん断波位相速度を算出し,最終的に組織構造変化に伴うせん断波速度分散の程度を評価した.
【結果・考察】
正常肝を表すF0から慢性肝炎を表すF1~F3,肝硬変の状態を表すF4それぞれの線維化ステージにおけるせん断波速度分散の程度を評価するために,せん断波周波数100~1000[Hz]における位相速度の傾きを比較した.その結果,F0では0.014±0.001[m/s/kHz]と位相速度の傾きは小さかったが,F1では0.33±0.26[m/s/kHz],F2では0.55±0.29[m/s/kHz],F3では1.09±0.75[m/s/kHz]と位相速度の傾きは線維化ステージの進行に伴い大きくなった.ただし,F4では0.055±1.39[m/s/kHz]と位相速度の傾きは減少した.これは,F4では結節サイズがせん断波の波長よりも大きくなり,速度分散に影響を与える肝臓の微小構造が少なくなったことに加え,特にF4ではせん断波の波面の乱れが大きく位相速度推定自体の誤差が大きかったためと考えられる.
【結論】
本報告において肝臓の微小組織構造の変化が粘性計測に対して影響を与えることを検証した結果,粘性をもたない力学モデルでも微小肝組織構造によりせん断波速度分散が生じることを確認した.実際の慢性肝炎におけるせん断波位相速度の傾きは0~10[m/s/kHz]程度との報告があるため,今回の微小肝組織構造の影響は粘弾性評価において無視できない大きさであることがわかった.したがって,肝組織粘弾性計測においては肝臓の組織構造を考慮する必要がある.また今後,組織構造の影響を考慮した定量的な粘弾性推定法を検討する必要がある.
【謝辞】
本研究の一部はAMEDの肝炎等克服実用化研究事業の支援により行われた.