長谷川 英之

Hideyuki HASEGAWA

富山大学大学院理工学研究部

Graduate School of Science and Engineering, University of Toyama

キーワード :

【1．目的】
超音波断層像の距離分解能は，基本的に使用する超音波トランスジューサの帯域幅に依存する．種々の信号処理手法により，受信超音波信号を広帯域化する手法が研究されており，超音波断層像の距離分解能向上の可能性が示されている．本報告では，平面波送信を用いた高速超音波イメージング法における距離分解能向上手法に関する検討を行った．
【2．原理】
高速超音波イメージングでは，送信回数が少ないことから，超音波プローブの各素子で受信した信号に適用する距離分解能向上手法の検討を行った．素子データに適用することにより，受信フォーカシングによる受信波形の変化などが低減されると考えられる．通常の超音波イメージングでは1フレーム当たりの送信回数が多いため素子信号への適用は処理時間が膨大となる．本研究では，15 umのワイヤからのエコーを参照波として，最尤推定法およびmultiple signal classification（MUSIC）法により対象の散乱強度分布推定を行い，その結果を超音波断層像として表示する．ただ，推定される量は散乱強度であり，位相情報が欠落するためビームフォーミングによる横方向分解能が得られにくくなるため，横方向分解能は従来の遅延和法により形成した．
【3．実験結果】
15 umのワイヤの超音波断層像に提案手法を適用し，距離分解能の評価を行った．その結果，従来のBモード断層像ではワイヤからのエコーの半値幅は0.211 mmであったのに対し，提案した最尤推定法およびMUSIC法ではそれぞれ0.081 mmおよび0.084 mmと，従来法より高分解能であった．さらに，ヒト頸動脈のデータに適用した結果を図に示す．図（a）の従来のBモード断層像に対し，図（b）の最尤推定法による結果および図（c）のMUSIC法による結果では，後壁内腔境界からのエコーが尖鋭化していることが分かる．また，図（a）左の矢印で示した前壁の部位など，横方向の不連続性が改善していることが分かる．これは，距離分解能の向上により干渉の影響が低減され，スペックルが低減されたことが1つの原因と考えられる．また，最尤推定法では，参照波との相関が低い信号を抑圧することから，図（a）左の矢印で示されるサイドローブにより発生した内腔の不要エコーも低減されている．
【4．まとめ】
本報告では，高速超音波イメージングのための距離分解能手法について検討を行い，提案手法による画質の向上について確認した．