Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 工学基礎
高周波

(S448)

超音波顕微鏡を用いた培養がん細胞の抗がん剤に対する細胞内変化の観察

Intracellular reactions of cultured cancer cells to anticancer drugs using acoustic microscopy

SOON Thomas Tiongkwong, RAHAYU Rahma Hutami, 高梨 恭一, 小林 和人, 穂積 直裕, 吉田 祥子

Thomas Tiongkwong SOON, Rahma Hutami RAHAYU, Kyoichi TAKANASHI, Kazuto KOBAYASHI, Naohiro HOZUMI, Sachiko YOSHIDA

1豊橋技術科学大学環境生命工学系, 2豊橋技術科学大学電気電子情報工学系, 3本多電子株式会社R&D

1Department of Environmental and Life Sciences, Toyohashi University of Technology, 2Department of Electrical and Electronic Information Engineering, Toyohashi University of Technology, 3R&D, Honda Electronics Co., Ltd.

キーワード :

【はじめに】
細胞内には,細胞の内部構造・運動・細胞分裂などに関与する細胞骨格性タンパク質が分布している.特にアクチン線維は,細胞の増殖と分裂に深い関係がある.従来,細胞内の繊維構造やオルガネラの観察は,アルデヒド固定した資料を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察するものが殆どだった.発表者らは以前より中心周波数320MHzの高分解能音響インピーダンス顕微鏡を用いて,薄膜上に培養した細胞の内部構造を無染色・非破壊で観察している.音響インピーダンスは体積弾性率に比例しており,細胞内では特にアクチン線維に強く依存していることが知られている.筋芽細胞の分化により細胞内のインピーダンスが増加すること,サイトカラシンBのようなアクチン線維の脱重合剤によって著しくインピーダンスが低下することから,音響インピーダンスは物質量ではなく粘弾性を持つ線維性構造を強く反映していることが考えられてきた.本研究では,薄膜上で培養したグリオーマ細胞,乳がん細胞に対し,各種の作用機序の異なる抗がん剤を投与し,細胞内構造の経時的変化を観察した.抗がん剤の標的はアクチン線維に留まらず,微小管やDNA複製,たんぱく質翻訳など細胞内の様々の機能を標的としている.これらの抗がん剤の投与によって培養がん細胞に現れる変化を音響インピーダンス顕微鏡で可視化した.
【実験】
ガン化したグリア細胞であるC6グリオーマ細胞(DSファーマバイオメディカル)または乳がん細胞(DSファーマバイオメディカル)を,薄膜型培養基であるオプチセル(膜厚75μm)または株式会社メニコンと共同開発した薄膜型培養基(膜厚50μm)で培養した.培養がん細胞に,抗がん剤であるテモゾロミド(TMZ),ニムスチン(NIM)またはアクチン重合阻害剤サイトカラシンB(CyB)を投与し,細胞の経時変化を音響インピーダンス顕微鏡で観察した.さらに免疫染色でアクチン線維と核の分布を観察した.
【結果】
微小管を標的とするTMZでは,アクチン線維を標的とするCyBほどはっきりとした変化が観察されなかった.一方,DNA複製を標的とするとされるNIMでは,投与によって乳がん細胞の内部状態,とくに核周辺と核内部に著しい変化が観察された.グリオーマ細胞に比べ細胞が厚く核が細胞情報に分布している乳がん細胞のほうが,核を標的とする抗がん剤の効果が観察されやすいと考えられる.
【まとめ】
がん細胞の抗がん剤投与による初期の変化を,音響インピーダンス顕微鏡を用いて非接触観察できた.今後,適切な抗がん剤の選定や新規の医薬品開発など,対象を非侵襲で観察するための技術として医療工学分野への応用が期待できる.