Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

奨励賞演題 奨励賞
産婦人科 奨励賞

(S439)

子宮頚部病変診断における光音響画像の臨床応用

Clinical application of photoacoustic imaging for uterine cervical lesion

精 きぐな, 大川 晋平, 中村 亜希子, 鈴木 亜矢子, 笹 秀典, 野口 雅史, 入澤 覚, 和田 隆亜, 古谷 健一, 石原 美弥

Kiguna SEI, Shinpei OKAWA, Akiko NAKAMURA, Ayako SUZUKI, Hidenori SASA, Masahumi NOGUCHI, Kaku IRISAWA, Takatsugu WADA, Kenichi FURUYA, Miya ISHIHARA

1防衛医科大学校産科婦人科講座, 2防衛医科大学校医用工学講座, 3富士フイルム株式会社R&D総括本部メディカルシステム開発センター

1Department of Obstetrics and Gynecology, National Defense Medical College, 2Departement of Medical Engineerings, National Defense Medical College, 3cMedical Systems R&D center, R&D Management Headquarters, Fujifilm Corporation

キーワード :

【目的】
子宮頚癌はヒトパピローマウィルス(HPV)の感染による悪性腫瘍であるが,早期発見により完治可能である.検診における細胞診結果に応じコルポスコピーによる組織診,治療と最終診断を行う円錐切除術へと進むが,病変分布を事前に把握する手法が乏しいため不適切な生検・切除,病変遺残が散見される.超音波画像診断装置のドプラ法による血流測定などで病期分類を行う試みが複数あるが,病変の分布を示すには至らず,病変が狭い範囲に限局するため磁気共鳴画像においても病変の検出は困難である.光音響画像化技術は目的の物質に光を照射することで発生する超音波でその分布画像を取得できる技術で,ヘモグロビンに適用すれば微小血管の局在を高い空間分解能をもって画像化できる.我々は光音響画像化技術を用い,子宮頚部病変で起こるHPV慢性感染による微小血管増生を描出し,病変分布の評価を目的とした臨床研究を行った.
【方法】
本研究は防衛医科大学校倫理委員会の承認のもと行われた.ここで用いた光音響画像化装置は防衛医科大学校医用工学講座及び富士フイルム株式会社で共同開発された.750 nmのナノ秒パルスレーザー光を用いて得られた光音響信号を画像化し,同時に取得する超音波画像に重畳し表示できる機能を持つ.2015年12月から2016年12月までに,当院でコルポスコピーまたは円錐切除術の対象となった患者に対し,生検または術直前に経腟的に光音響画像を取得した.取得した画像と組織学的所見を比較し,病変検出における光音響画像の有用性を検討した.なお本研究では頚部異形成(CIN)grade 2以上の病変を高度病変として扱った.
【結果】
コルポスコピーは79例,円錐切除術は11例であった.コルポスコピーでは1例につき1箇所の組織生検を行い,CIN2未満39例,CIN2以上40例であった.組織診と細胞診の合致率は72.2%であった.コルポスコープ視診にて所見ありと判断された部位で組織学的に高度病変と診断された例は55.6%,所見なしの部位で高度病変と診断された例は26.3%であった.光音響画像上微小血管の集簇を示唆する信号を認めた部位で生検が施行されていた例のうち87.2%が高度病変と診断され,明らかな信号を認めない部位で生検が施行されていた例では12.5%が高度病変と診断された.円錐切除術例では診断不能2例,CIN32例,上皮内癌(CIS)5例,扁平上皮癌(SCC)2例であった.1症例につき12個作成された組織標本において上皮の組織診断が可能な標本92個について,Squamous- Columnar junction付近の間質に存在する1平方ミリメートル当たりの血管周囲径を計測したところ,CIN2未満の12箇所では2554±788 µm,CIN2からCISの68箇所では4392±1363µm,SCC13か所では6223±1779 µm(平均±SD)であり,病変が高度になるに従い血管周囲径が有意に増加した.術直前に取得した経腟光音響画像では高度病変局在部位にほぼ合致して強い信号を呈する傾向が認められ,組織学的な血管増生が画像に反映されていることが示された.
【結論】
光音響画像で微小血管由来と考えられる信号を認めた部位では高い確率で高度病変が診断された.この結果は補助診断技術としての有用性を示唆している.円錐切除術例において,高度病変の局在評価における光音響画像の可能性が組織学的に証明された.処置前の光音響画像診断により病変の局在を把握することで,より確実な生検・病変切除に結びつく可能性が期待できる.