Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

奨励賞演題 奨励賞
産婦人科 奨励賞

(S438)

小動物用超音波イメージングシステムを用いた胎児心不全モデルマウスの探索

New approach for fetal heart failure in mice using high-frequency ultrasound imaging systems

三好 剛一, 根木 玲子, 吉松 淳

Takekazu MIYOSHI, Reiko NEKI, Jun YOSHIMATSU

国立循環器病研究センター周産期・婦人科

Perinatology and Gynecology, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【目的】
胎児先天性心疾患のタイプによっては胎内で心不全が進行する.胎児心臓超音波検査の技術は向上しているが,心形態異常の発生と心不全の進行との関連性は十分解明されていない.当センター分子生理部の中川らにより,Hey2/Hrt2遺伝子が胎生期より心臓に強く発現すること,Hey2/Hrt2ホモ接合型(KO)マウスは心室中隔欠損などの心形態異常によって出生後すぐに死亡することが報告された(Dev Biol. 1999).本研究では,小動物用超音波高解像度イメージングシステムを用いてHey2/Hrt2 KOマウスにおける胎仔期の心形態及び循環動態を観察することにより,胎児心不全モデルマウスとなり得るかどうかを検証した.
【対象と方法】
Hey2/Hrt2ヘテロ接合型(HET)マウスを交配後,18.5日目(母獣9匹)に小動物用超音波高解像度イメージングシステム(Visual Sonics Vevo2100®)を用いて,胎仔の心形態診断及び心機能評価,臍帯動静脈の血流評価を行った.心収縮能評価としてB-modeによる右室面積変化率及びM-modeによる左室内径短縮率,心拡張能評価としてPulsed-wave Dopplerによる右室・左室流入血流速度波形E/Aを用いた.超音波による測定は全て同一検者によって実施した.超音波検査直後に摘出,各胎仔のgenotypeを確定し,野生型(WT),HET,KOにおける超音波所見を比較検討した.統計解析にはStudent-t検定,Kruskal-Wallis検定を用い,P<0.05を有意差ありとした.本研究は,センター内の動物委員会の承認を得て実施した.
【結果】
胎生18.5日目の時点で,WT 23匹,HET 29匹,KO 17匹が生存しており,全例で超音波評価が可能であった.胎仔重量はKOで有意に低値であった(P=0.04).KOの2例(11.8%)で胸水貯留を認めた.KOでは,右室拡張期面積が低値で,左室拡張期面積が高値であった(P<0.01).KOの全例で心室中隔欠損が確認され,2例(11.8%)で三尖弁閉鎖1c型を呈していた.摘出標本と超音波の形態診断は全例で一致した.肺動脈の低形成は軽度で,動脈管も順行性(右→左)であった.また,KOにおいて,右室面積変化率,左室内径短縮率及び右室・左室流入血流速度波形E/Aが有意に低値であった(P<0.01).臍帯動脈RIはKOで有意に高く,7例(41.2%)で拡張期途絶を認めた.
【考察】
Hey2/Hrt2 KOマウスにおいて,胎仔期に右室低形成,左室拡張及び心不全を呈することが確認された.右室流出路は保たれていることから,右室流入路もしくは右室自体の異常から右室低形成を来し,卵円孔を介した左室容量負荷の増大から,著明な左室拡張を呈したと推察された.両心室の拡張能及び収縮能障害が確認された.また,胎仔心機能障害と胎盤血流障害との関連性が示唆された.これらの知見は,Hey2/Hrt2 KOマウスの胎仔心臓を動的に観察することで得られた新しい表現型であり,心形態異常が胎仔期の機能的な心臓発達に影響することが示唆された.
小動物用超音波イメージングシステムにより,従来の摘出組織による解析では困難であったマウス胎仔心臓の機能的評価及び胎盤の血流評価が可能であった.ヒトにおいては観察困難な胎生早期の心形態異常の発生過程を観察可能としたところに最大のメリットがあると考えられる.侵襲を加えることなく,胎生期における経時的な変化も観察できるため,心臓血管発生学に全く新しい知見をもたらす可能性が期待される.
【結論】
小動物用超音波高解像度イメージングシステムを用いることにより,胎生期から心臓の形態及び機能評価が可能であった.本研究結果より,Hey2/Hrt2 KOマウスが胎児心不全モデルマウスとなり得ることが確認された.今後,本モデルを用いて胎児心不全治療法の開発を進めていきたい.