Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

奨励賞演題 奨励賞
循環器 奨励賞

(S435)

悪性リンパ腫の患者における抗癌剤投与後の左室収縮能低下を予測する因子の検討

Predictor of left ventricular systolic dysfunction in Patients malignant lymphoma after receiving anthracycline

畑澤 圭子, 田中 秀和, 野中 顕子, 下浦 広之, 大岡 順一, 佐野 浩之, 望月 泰秀, 郡山 恵子, 松本 賢亮, 平田 健一

Keiko HATAZAWA, Hidekazu TANAKA, Akiko NONAKA, Hiroyuki SHIMOURA, Junichi OOKA, Hiroyuki SANO, Yasuhide MOCHIZUKI, Keiko KORIYAMA, Kensuke MATSUMOTO, Ken-Ichi HIRATA

1神戸大学医学部附属病院循環器内科, 2兵庫県立がんセンター循環器内科

1Cardiovascular Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan, 2Cardiovascular Medicine, Hyogo Cancer Center, Akashi,Japan

キーワード :

【背景】
アントラサイクリン系薬剤は,幅広い種類の血液疾患や固形癌へ使用されている効果的な抗腫瘍薬である.一方で,アントラサイクリン系薬剤を用いた化学療法で最も重篤な副作用は,用量依存性に左室収縮能障害が進行し,化学療法終了後数年経過した後でさえ,心不全を発症しうることである.また,アントラサイクリン系薬剤による左室心筋障害は従来の薬物療法への反応が乏しく,予後不良と考えられている.そのため,どのような症例がアントラサイクリン系薬剤の投与後に,左室収縮能障害が出現するのかどうかを予測できれば,臨床上非常に有用である.
【目的】
アントラサイクリン系薬剤を投与した悪性リンパ腫患者を対象に,投与前の心エコー図指標ならびに患者背景から,投与後の左室収縮能の低下を予測できるかどうかを後ろ向きに検討すること.
【方法】
左室駆出率が保持された(左室駆出率≥50%),アントラサイクリン系の化学療法を受けた77例の悪性リンパ腫の患者を対象とした(年齢:63.8±13.8歳,男性:44例,左室駆出率:62.9±6%).化学療法後の心エコー図検査で左室駆出率が50%未満に低下した症例または左室駆出率が化学療法前と比較して10%以上低下した症例を左室収縮能低下群とした.それ以外を左室駆出率保持群とし,化学療法前の2群間での患者背景,標準的な心エコー図指標を比較検討した.左室長軸方向の心筋収縮能の指標として,2次元スペックルトラッキング法を用い,心尖部18領域からglobal longitudinal strain(GLS)を計測した.
【結果】
抗癌剤治療後に7例が左室収縮能低下群に分類された.2群間の比較では,放射線治療歴の有無,他の悪性腫瘍の既往歴が左室収縮能低下群で有意に高く,GLSは左室収縮能低下群で有意に低値であった(18.8±3.9%vs. 21.1±2.8%,p=0.046).多変量ロジスティック回帰分析では化学療法治療前のGLSのみが唯一抗癌剤治療後の左室収縮能の低下を予測し得る指標であった.また,GLSのカットオフ値20.1%で感度71%,特異度57%で抗癌剤治療後の左室収縮能の低下を予測し得た(AUC=0.661,p=0.03).
【結論】
化学療法前に左室駆出率が保持されていても,左室長軸方向の心筋収縮能(GLS)が低下している症例は,治療後に左室駆出率が低下する可能性が示唆された.化学療法前にGLSが低下している症例は,心エコー図検査のフォローを密にするか,心保護薬の予防的な投与が有用であるかもしれない.