Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

奨励賞演題 奨励賞
基礎 奨励賞

(S432)

低出力超音波(LIPUS)による幹細胞の分化制御と組織再生能の向上

LIPUS application regulates stem cell differentiation and tissue regeneration potency

楠山 譲二

Joji KUSUYAMA

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科口腔生化学分野

Department of Oral Biochemistry, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences

キーワード :

【目的】
低出力超音波(low intensity-pulsed ultrasound: LIPUS)は超音波周波数1.5MHz,バースト幅200micro秒,繰り返し周波数1.0kHzの断続的なパルス状超音波で,その音圧は組織に物理的刺激(メカニカルストレス)を与えることができる.LIPUSを骨折部位に照射すると骨癒合が促進することが疫学的に証明されており,一部の難治性四肢骨折においてはLIPUS照射による治療が保険適用されている.我々はこれまでにLIPUSによる間葉系幹細胞の骨分化促進/脂肪分化抑制のシグナル伝達経路とその詳細な分子機構を明らかにした.更に,LIPUSを照射することで,LPS(リポ多糖)による骨芽細胞の炎症応答を抑制できることを報告した.これらの成果はLIPUSと幹細胞移植の組み合わせが2つの面で有用なことを示唆している.まず初めに,LIPUSによって幹細胞の分化方向を制御し,幹細胞を効率的な組織再生供給源として機能させることができる.次に,LIPUSによって炎症を中心とした移植部位の細胞分化阻害因子の影響を抑えることができる.そこで本研究では,マウス骨髄由来間葉系幹細胞(mMSC)やヒト歯根膜由来幹細胞(hPDLSC)を用い,LIPUSによる慢性炎症性骨代謝疾患の治療をモデルとして,その応用の可能性と基盤となる分子メカニズムについて検討した.
【材料と方法】
マウス大腿骨骨髄及び,健常人の第三大臼歯・第一小臼歯歯根膜を採取し,酵素処理することでmMSCとhPDLSCを回収した.両細胞の多能性は骨・脂肪・軟骨分化培地での培養によるフェノタイプと,既知の細胞表面マーカーの発現によって確認した.次に,両細胞を骨分化誘導培地(アスコルビン酸,BMP2またはBMP9含有)で培養する際,LIPUS(30mW/cm2)を20min/dayで照射し,石灰化基質形成能と骨分化関連遺伝子の発現を解析した.また両細胞を炎症性サイトカイン(LPS,IL-1beta,TNF-alpha)で刺激する際に,LIPUSで共刺激し,炎症応答遺伝子の発現を評価した.更に,骨分化誘導時に炎症性サイトカインを加えた上でLIPUSを照射し,骨分化能の変化を解析した.
【結果】
LIPUSはmMSCとhPDLSCの骨分化による石灰化基質形成と骨分化マーカー遺伝子(Osteocalcin, Bone sialoprotein, Osteopontin)の発現を有意に促進した.またmMSCとhPDLSCを炎症性サイトカインで刺激すると,MAPKカスケード分子のリン酸化が誘導され,IL-6,IL-8,CCL2,RANKLといった骨吸収に関わるサイトカインのmRNA発現が上昇したが,LIPUSによる同時刺激はこれらの炎症応答を抑制した.更に,炎症性サイトカインはmMSCとhPDLSCの骨分化を強く阻害したが,LIPUSによる刺激を同時に作用させることで,骨基質形成の減少が有意に回復した.そのメカニズムとして,LIPUSは細胞膜直下に局在し,細胞骨格構築に関わるROCKと呼ばれる分子を活性化しており,骨分化促進に関わる転写因子の調節するとともに,細胞表面の炎症サイトカイン受容体の機能を阻害した.
【考察】
LIPUSは幹細胞移植と組み合わせることで,慢性炎症性骨代謝疾患における効率的且つ確実性の高い組織再生療法を実現できるツールである可能性がある.