Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

奨励賞演題 奨励賞
基礎 奨励賞

(S431)

振幅トレース法による高精度遅延を用いた開口合成イメージング

Synthetic aperture ultrasound imaging using the precise delay formation by the amplitude trace method

広島 美咲, 栗原 浩, 池田 貞一郎, 石原 千鶴枝

Misaki HIROSHIMA, Hiroshi KURIBARA, Teiichiro IKEDA, Chizue ISHIHARA

1(株)日立製作所研究開発グループ, 2(株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット

1Research & Development Group, Hitachi, Ltd., 2Healthcare Business Unit, Hitachi, Ltd.

キーワード :

【背景・目的】
送信開口合成撮像(Synthetic transmit aperture:STA)は,送信ダイナミックフォーカスの効果により,従来のDAS(Delay and sum)方式では難しかった高画質と高速性の両立を可能にし,近年の医用超音波システムの基盤技術になりつつある.中でもフォーカスビームを用いたSTAはSN比と方位分解能のバランスがよく,高い画質向上効果が期待されるビームフォーミング手法である.一方,フォーカスビームは送信軸の外側で,回折波による複雑な波面を形成し,そのため遅延計算には精確な波面伝搬のモデリングを必要とする.これまで波面形状に基づく幾何学的なモデルが提案されてきたが,幾何波面モデルはその適用範囲が限られ,合成領域の拡張は画像の劣化を招いた.本研究では幾何波面モデリングを必要とせず,広い領域で精度よく遅延計算を行う手法(the model-less amplitude trace method:MLAT法)を提案し,提案手法を用いたSTAによる高速化および高画質化の効果を明らかにする.
【方法】
MLAT法は波面解析に基づいて最適な遅延値を演算する.従来の幾何波面モデルが距離空間の波面描画に基づくものであるのに対して,MLAT法はFig.1に示すように波面伝搬を受信走査線に沿った深度(d)-伝搬時間(τ, Time of flights:TOF)軸へ投影したd-τ空間で振幅のピーク位置をトレースする,時空間波面追跡を行う.これにより合成領域の全域にわたって精確な遅延値を抽出することができる.本報告では,インパルス法に基づく波面伝搬シミュレーションを行い,実際の波面伝搬時間とMLAT法で計算された遅延時間との誤差を評価する.また,超音波診断装置で取得した実RFデータを用いた画像エミュレーションで,本手法による画質向上効果を評価する.
【結果・考察】
Fig.2に遅延精度の評価結果を示す.従来の幾何波面モデル(Virtual source model)は,とくに焦点深度において適用可能範囲が狭く,送信軸近傍でも45°(1/8波長)以上の遅延誤差を有する.一方でMLAT法ではSTA合成領域のほぼ全てで遅延誤差10°以下に抑えた.これによりスキャン領域の拡張による高速撮像や,STAの送信間合成でのコヒーレント性の向上が可能となる.Fig.3に心臓の撮像結果を示す.MLAT法を用いたSTA撮像はDAS撮像と比べて心腔-組織間のコントラストと深部の輪郭描出において有意な画質の向上を示した.本手法により超音波Bモード像の一層の高画質化が期待される.