英文誌(2004-)
奨励賞演題 奨励賞
基礎 奨励賞
(S431)
In vivo模擬条件での超音波照射下における微小気泡と細胞との相互作用の高速度観察
High-speed observation of bubble-cell interaction under ultrasound exposure in in vivo-like situation.
磯野 朱音, 工藤 信樹
Akane ISONO, Nobuki KUDO
北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻
Division of Bioengineering and Bioinformatics, Graduated school of Information Science and Technology, Hokkaido University
キーワード :
【背景・目的】
我々は,気泡が細胞に付着した条件でパルス超音波を照射することで細胞に薬剤や遺伝子を導入するソノポレーションをin vivoで実現することを目的に検討している.これまで,細胞を培養する足場層の硬さと気泡の細胞への付着条件がソノポレーション効率に影響を与えることを明らかにしてきた.本報告では,柔軟な足場層における微小気泡は超音波により足場から離れていくにもかかわらず,細胞存在下で膜損傷が発生する機序解明のため,高速度観察を行った結果を報告する.
【方法】
高速度カメラにはバーストイメージセンサ(FTCMOS)を装備したHPV-X2(Shimadzu)を用いた.撮影速度は毎秒1,000万コマとし,256コマの明視野画像を得た.柔軟な細胞足場層として濃度15%のアクリルアミドゲルを用い,その上にヒト前立腺がん細胞を単層培養し,観察サンプルとした.作成したサンプルを水槽の底面に設けたチャンバに設置し,倒立型顕微鏡で観察した.気泡の膨張収縮に隠されることなく,気泡と細胞との相互作用を側方から観察できるチャンバを用いた.観察対象は核上または仮足上に気泡が付着した細胞とし,気泡はブラウン運動をしていないものに限定した.集束型超音波振動子で発生した中心周波数1 MHz,最大負圧0.8 MPa,波数3波のパルス超音波を照射し,これをトリガとして高速撮影を開始した.
【結果・考察】
Fig. 1に細胞近傍で膨張・収縮する微小気泡のふるまいを2台の高速度カメラで側方観察した結果を示す.(a)は我々が以前用いていたイメージコンバータ管を撮像素子とするカメラ,(b)は今回新たに用いた上記のカメラで撮影した1コマである.両者を比較すると,(a)に比べ,(b)の方が気泡と細胞の輪郭や気泡の付着部位とそのふるまいの様子が鮮明であることがわかる.全14例について観察を行うと,全ての例において気泡は膨張・収縮に伴い細胞面から離れていく様子が確認された.しかし,気泡の細胞面からの離れ方やそのタイミングは様々で,超音波の1波目から離れて細胞に影響を与えない例,離れる際に細胞膜の一部を引っ張る例,気泡が大きく膨張・収縮して細胞全体を足場から引き剥がす例などが観察された.これらの結果は,付着している気泡の径や数,気泡と細胞との接着の強さが気泡と細胞との相互作用に大きな影響を与えることを示しており,特に細胞の変形を捉える上で高画質な高速度観察が重要な意味を持つことを示している.