Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 救急POC
ワークショップ 救急POC 急性期診療におけるPoint-of-Care Ultrasound -エビデンスに基づいた新しい活用法-

(S421)

呼吸困難やショックにおける領域横断的超音波検査

Integrated ultrasound for the assessment of dyspnea and shock

亀田 徹

Toru KAMEDA

安曇野赤十字病院救急科

Department of Emergency Medicine, Red Cross Society Azumino Hospital

キーワード :

ベッドサイドでは病歴・バイタルサイン・身体所見に基づいた診断推論により鑑別疾患が挙げられ,必要な検査が依頼される.超音波検査については,通常一つの領域の系統的超音波が検査室に依頼されるが,時には同時に複数の領域が依頼されることもある.複数の系統的超音波を一度に行うのは,検査室であってもかなりの労力と患者への負担が生じる.
救急室では呼吸困難やショックの患者の診療を行う機会が多いが,それぞれの鑑別疾患は複数領域に及び,柔軟な対応が求められる.特にバイタルサインが不安定な場合は,慎重にモニタリングを行いつつ迅速な診断と介入が求められるので,検査室で系統的超音波を行うのは現実的ではない.また救急室で系統的超音波を行うことも時には可能だが,特に複数領域の評価が必要な場合は,複数の系統的超音波を駆使することは現実的ではない.
問題解決解決型アプローチで観察項目を絞り短時間で施行するpoint-of-care ultrasound(POCUS)の考え方の普及に伴い,症候に基づき判断の迫られるベッドサイドで,各領域のPOCUSを横断的に組み合わせて活用するという考え方が注目されているのはある意味自然と言えよう.このようなPOCUSをここでは統合超音波と呼称する.
呼吸困難の評価方法として,救急領域では肺超音波の普及が少しずつ進んでいる.疾患別には気胸や(心原性)肺水腫における有用性が多くの臨床研究から明らかになっている.ただし呼吸困難の評価として肺超音波単独だけでは限界があり,肺超音波に簡略化された心臓超音波(例えばfocused cardiac ultrasound),下肢静脈超音波(例えば2点法)を加えた統合超音波の有用性についての報告も散見されるようになった.呼吸困難において統合超音波を活用していくには,新たな活用法である肺超音波への理解が必要であり,また呼吸困難の鑑別疾患の中で超音波診断に適したものを事前に整理しておく必要があろう.
ショックの原因も領域を越えて多岐にわたり,統合超音波の考え方が生かされる.簡略化された心臓超音波,肺超音波,腹部超音波,下肢静脈超音波のすべてもしくは一部を組み合わせた統合超音波の有用性について検討した様々な臨床研究が報告されている.またショックにおける統合超音波について種々のプロトコルやフレームワークが示されているが,その代表にRUSH(rapid ultrasound in shock)がある.RUSHは3つのパート「Pump」,「Tank」,「Pipes」で構成されるユニークな包括的超音波活用法である.RUSHの利用法としては,診断推論によりショックの分類(循環血液減少性,心原性,閉塞性,血液分布異常性)と想定される鑑別疾患を念頭におき,優先順位を考慮し,RUSHというフレームワークの中から観察の必要な項目を順次走査していくのが妥当であろう.
このように呼吸困難やショック症状を呈する患者を対象に,統合超音波の有用性を検討した研究が数多く行われ,早期診断に有用であることが明らかになってきた.しかし統合超音波を行うことで予後の改善が得られたことを示した研究はなく,患者ケアの視点からさらに検討が必要である.また病歴・バイタルサイン・身体所見による的確な診断推論に基づいた単一領域の超音波と,症候別アルゴリズムに基づいた統合超音波のどちらが優れるかについてもさらに検討が必要である.