Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 運動器
パネルディスカッション 運動器 超音波ガイド下生理食塩水注射が果たす臨床的意義

(S412)

下肢の痛みと,超音波ガイド下関節外ブロックの可能性

Ultrasound-guided extra-articular block for lower limb pain

仲西 康顕

Yasuaki NAKANISHI

奈良県立医科大学整形外科

Nara Medical University

キーワード :

膝関節の痛みは,整形外科を受診する高齢患者の最も多い主訴の一つである.これらの多くの患者はX線写真上,関節裂隙の狭小化や骨棘形成などの所見が認められ,変形性膝関節症の診断のもとに保存的療法や手術療法など様々な治療方針の適応が検討される.一方で,X線写真上でのこれらの所見は必ずしも症状の強さと相関しない.変形性膝関節症の保存的治療の経過中,特に誘因無く,X線上の変化や関節水腫等の明らかな異常も見られないにも関わらず,患者が膝関節内側の強い痛みを訴える状況が臨床上散見され,しばしば患者のADLに大きく影響を及ぼす.
この変形性膝関節症患者の非特異的な膝関節痛に対して,一つの治療手段の選択肢として我々は超音波ガイド下の伏在神経ブロックに注目してきた.伏在神経は大腿神経の枝であり,膝関節内側から足関節内側付近を支配する知覚神経である.伏在神経は膝関節裂隙から鵞足付近では縫工筋筋膜と薄筋筋膜の間を走行する.超音波診断装置を用いて,伏在神経やこれらの筋膜構造を観察することができ,外来診察室において伏在神経をターゲットとして正確に少量の局所麻酔薬を注入することが可能である.ブロックの効果は時に劇的であり,診察室で直ちに痛みと歩容の改善を認めることも多い.また,鎮痛効果は局所麻酔薬の効果時間を超えて持続する.
これらの膝関節内側の痛みの病態やブロックの機序については,未だに明らかではないが,我々の経験上伏在神経ブロックは特に鵞足や内側側副靭帯等に圧痛のある患者に有効であり,関節外の筋膜等の軟部組織やそれを支配する知覚神経がこれらの痛みに関わっていることを推測させる.
同様に股関節や膝関節周囲において,神経の知覚枝が存在すると考えられる筋膜をターゲットとした,極めて低濃度の局所麻酔薬注入が劇的な治療効果を示すことがある.注射手技によるプラセボ効果の影響や検者の主観によるバイアスの排除は臨床研究を行う上で比較的難しい領域ではあるが,従来の関節内ブロックとは異なる,超音波ガイド下関節外ブロックの手技と効果について今後十分に検討する価値があるのではと我々は考える.