宮武 和馬

Kazuma MIYATAKE

横浜市立大学運動器病態学教室

Department of Orthopaedic Surgery, Yokohama City University

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上肢の障害は様々あり，手術を中心に整形外科医は日々多くの障害を治療している．ただ，中には難治性で効果的な治療が確立されていない障害や，CT,MRIでも異常所見がうつらず疼痛が改善しない症例も多く存在する．我々はそのような症例を前にすると，「年齢」あるいは「使いすぎ」という言葉で患者と自分を説得し，「痛み止め」と「リハビリ」で漫然と治療を行うことが多い．しかし超音波診療が普及し，動きからその病態を考察することが可能となってきた．また，エコーガイド下のinterventionを利用し診断と治療を同時に行う「診断的治療」も可能になり，病態の解明に一歩ずつ近づいている．その中でも神経の周辺に生理食塩水を注射する”Hydrodissection”やFasciaに対して注射を行う”Fascia Release”が近年注目を集めており，症例を交えながら紹介する．
神経由来の痛みであれば，野球を中心としたスポーツ選手では尺骨神経の痛みが多く，日常診療では橈骨神経・正中神経を中心とした神経の障害に遭遇することが多い．尺骨神経においては，たとえ脱臼を伴うケースであってもHydrodissectionが著効する．また手根管症候群だけでなく，さらに近位での正中神経の疼痛が出現する症例や，まるで外側上顆炎のような橈骨神経の障害も存在する．そのようなケースであれば圧痛部位を詳細に触診することで最大圧痛部を探し出し，圧痛部に応じたHydrodissectionを行う．また，腱板周囲や回外筋，伸筋支帯など，様々なFasciaに生理食塩水を注射することで疼痛の改善がはかれることもある．症例により効果の持続期間はそれぞれ様々であり，今後の検討が必要である．ただ病態解明の糸口になることは間違いないであろう．