Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 運動器
パネルディスカッション 運動器 超音波ガイド下生理食塩水注射が果たす臨床的意義

(S411)

腰痛治療における超音波ガイド下生理食塩水注射が果たす臨床的意義

The meaning of ultrasound-guided physiological saline injection therapy for acute back pain

白石 吉彦

Yoshihiko SHIRAISHI

隠岐広域連合立隠岐島前病院総合診療

Okidozen Hospital

キーワード :

腰痛は一つの疾患単位ではなく,症状の名称である.そして,最も代表的なcommon diseaseである.厚生労働省国民生活基礎調査でも常に上位に名を連ねる.腰痛ガイドライン2012で示されているように,癌,感染,骨折,神経症状を伴う腰痛がレッドフラッグとしてあげられている.重要なことはこのレッドフラッグをルールアウトすること,そしてそれ以外の非特異的腰痛を治療し,患者の苦痛に手を差し伸べることである.
実際プライマリケアの現場で受診する腰痛はほとんどが非特異的腰痛である.Deyoの報告以来,非特異的腰痛は原因が特定できない腰痛として扱われ,NSAIDs内服,外用薬でお茶を濁されてきた.しかし山口県腰痛studyによると非特異的腰痛の72%は診断可能であったとされる.内訳は腰筋膜性,椎間関節性,椎間板性,仙腸関節性などである.これらを確定診断するためには正しい部位の同定,同部位へのピンポイントの治療が必要である.この部位同定,治療部位の確認のために超音波診断装置は必須の機器である.
また軟部組織の病変の理解にはFasciaの概念が重要である.すなわち皮膚・皮下組織を含めた人体を覆う膜様組織を代表とした線維性結合組織の総称であるFasciaの機能異常,形態異常である.軟部組織の伸長性や組織同士の滑走性低下が認められ,これらも超音波診断装置で確認可能である.この異常はFasciaの重積という形で可視化され,これを生理食塩水で解除することで即時的効果が得られる.治療部位が正しければ,完治の場合もあれば,少なくとも数日は効果が持続する.一方レッドフラッグによる痛みであれば全く効かないか,数時間で痛みが再燃する.この場合にはもう一度治療部位の再検討,レッドフラッグの再確認をする必要がある.
診断の精度,治療部位の確認のために超音波診断装置は重要で,かつ局所麻酔ではなく生理食塩水を治療に使うことで,安全性を保ちながら,一定の治療効果があり,かつレッドフラッグの見落としを防ぐことができる.また生理食塩水注射で罹患部位を同定することによりリハビリとのより緊密な連携,生活改善,再発予防への介入を行うことができる.