Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 運動器
シンポジウム 運動器 救急医療に役立てる運動器エコー

(S408)

救急処置室で実施する超音波ガイド下神経ブロック

US-guided Nerve Block in the Emargency Room

仲西 康顕

Yasuaki NAKANISHI

奈良県立医科大学整形外科

Dept. of Orthopedic Surg., Nara Medical University

キーワード :

二次輪番病院や救命救急センターの救急処置室を受診する外傷患者は,しばしば非常に強い痛みを訴えながら救急搬送されてくる.特に関節の脱臼や切断肢,血行障害を伴う四肢の損傷では,会話する事も困難な程の強い痛みを呈する.このような状況下では治療方針の説明どころか,本人の口から受傷時の状況を聞き出すことも困難であり,手術室の準備が整うまで患者はオピオイドやNSAIDなどの投与でひたすら痛みを耐えることになる.
我々は2007年頃より,救急処置室で積極的に超音波ガイド下に末梢神経ブロックを行い,痛みをコントロールする事で,緊急手術までの患者の痛みを改善する取り組みを行ってきた.例として肩関節脱臼に対しては斜角筋間ブロック,下腿開放骨折に対しては坐骨神経ブロックと大腿神経ブロック等が有効であり,主に局所麻酔薬としては長時間作用型の0.75%ロピバカインを体重あたり3mg/kgの範囲で用いている.超音波診断装置により,腕神経叢や四肢の末梢神経を同定し,神経周囲に局所麻酔薬を浸潤する手技は慣れれば1-2分で終了する.完全な麻酔効果が発現するまでは30分程度を要するが,ブロック終了数分後には,劇的に痛みの緩和が得られることが多い.
救急処置室での神経ブロックは全身麻酔での手術に移行するまでの待機時間,患者にとっての苦痛を効果的に和らげることが出来る他,落ち着いた問診や治療方針の説明が可能となり合併損傷の評価も行いやすくなる等,利点は大きい.また,外傷の限定的であればブロックのみの麻酔で処置を行う事も十分可能である.
神経ブロックを実施する上での主な注意点としては,局所麻酔薬の投与量に十分注意し特に血管内への局所麻酔薬ご注入を避けることと,ブロック前に可能な範囲で神経学的異常所見を評価し,神経障害をブロックによってマスクし見落とさないようにすることが挙げられる.特にコンパートメント症候群では,確実な減張切開が不可逆的な障害を避けるために必須であり,神経ブロックによって痛みがマスクされ不十分な処置とならないよう,注意する必要がある.
リアルタイムに神経・穿刺針・薬液の広がり方が確認できる超音波ガイド下神経ブロックは,救急処置室での非常に有効な手技となりつつある.一方,確実な穿刺手技の習熟にはラーニングカーブが存在し,経験に合わせて無理なく手技を習得する必要がある.