Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 運動器
シンポジウム 運動器 救急医療に役立てる運動器エコー

(S406)

頚肩部痛

Neck and Shoulder Pain

小林 只

Tadashi KOBAYASHI

弘前大学医学部附属病院総合診療部

Department of General Medicine, Hirosaki University School of Medicine & Hospital

キーワード :

救急医療の現場は,初期・二次・三次救急医療機関と多様であり,受診する患者層もそこで必要とされる技術も異なる.救急医療における頚肩部痛患者への基本対応は,致命的な病態や内科疾患(例:クモ膜下出血,椎骨脳底動脈解離,髄膜炎,亜急性甲状腺炎,頚部膿瘍,心筋梗塞,大動脈解離,気胸,胆石発作)の除外に始まる.次に,運動器疼痛を考慮する.単純X線写真と診察の結果,明らかな骨折・神経障害・血流障害を認めなければ,CTやMRIを実施せずに,“明らかな異常なし,経過観察”の判断が下されることは,多忙な救急外来では非難されるものではない.しかし,患者が次回受診まで耐えることになる「診断不明という不安感」と「その症状の苦痛」を最小限にするために,超音波診断装置(エコー)の活用を検討してみてはいかがだろうか.エコーは,検者の操作技術に依存する情報の量や精度は課題であるが,余りある利点がある.具体的には,CTより優れる浅部の解像度は鎖骨や肋骨骨折・肉離れ・神経損傷の評価を,動画による観察は関節動揺性や筋運動の評価を,ドプラ機能による血流観察は炎症・血流障害の評価を,“その場“でInterventionが実施できる機動性は膿瘍の穿刺,石灰化性腱板炎への局所麻酔薬とステロイドによる局所注射,“寝違え症“の原因の大半を占める筋膜性疼痛への生理食塩水による局所注射(例:肩甲挙筋,斜角筋,腕神経叢)による治療的診断を可能にした.さらに近年の技術革新による深部描出能の向上は石灰化性頸長筋腱炎やCrown dense syndromeの診断をも可能にしつつある.また,超音波ガイド下注射は,内科医や救急医による安全かつ精密な治療的診断にも寄与するが,その即時的な治療効果が患者のコンビニ受診を増加させる可能性もあり,その実施は各医療現場の判断に委ねたい.依然として,救急外来でのエコーの活用は,画像の標準化や使用の煩雑さなど臨床医に敬遠される節もある.しかし,エコーは「第2の聴診器・1人1台」とも称され,医師以外の職種がケアやアセスメントに活用する道具として大衆化の道を進んでいる.このような状況で,救急医療における運動器エコーが,患者満足度の向上のみならず,診療の質の向上と迅速化,さらにはスタッフの労力軽減等に貢献されるために活用されることを待望する.