日高 尚子, 貴田岡 正史

Naoko HIDAKA, Masafumi KITAOKA

¹公立昭和病院内分泌・代謝内科, ²イムス三芳総合病院内分泌・代謝センター

¹Endocrinology and Metabolism Department, Showa General Hospital, ²Endocrinology and Metabolism Center, IMS Miyoshi General Hospital

キーワード :

【背景・目的】
バセドウ病と破壊性甲状腺炎は，ともに甲状腺中毒症を呈するびまん性甲状腺疾患であるが，全く異なる病態で治療法が異なるため両者の鑑別は重要である．しかし甲状腺中毒症が軽度である場合，抗TSH受容体抗体が弱陽性である場合，バセドウ病の経過中に炎症性破壊を起こす場合などは鑑別に苦慮することがある．病態に即した鑑別点として，甲状腺実質の血流や血流分布が挙げられる．リアルタイムで血流評価が可能な超音波検査は有用で，上甲状腺動脈血流速度や超音波造影法などがこれまで臨床的に検討されてきた．しかし前者はoverlapの問題が残っており，後者は甲状腺領域で保険適応のない点が問題である．
Superb Microvascular Imaging（以下，SMI）は甲状腺実質のような低流速・低血流量の観察に適したカラードプラ法の1つで，独自のアルゴリズムでモーションアーチファクトを判別して選択的に除去する．
今回，バセドウ病と破壊性甲状腺炎の鑑別におけるSMIの有用性について症例ベースで検討した．
【方法】
2014年1月～2016年12月に自施設で診断されたバセドウ病と破壊性甲状腺炎（亜急性甲状腺炎，無痛性甲状腺炎）のうち，SMIによる観察を行っていた55例（バセドウ病24例，亜急性甲状腺炎18例，無痛性甲状腺炎13例）を対象とした．対象全例においてBモードでの実質の低エコー領域，上甲状腺動脈平均血流速度（V mean peak），SMIで観察された実質の血流を後方視的に検討した．まず亜急性甲状腺炎の症例から，破壊巣がSMIでどのように観察されるか検討した．次にバセドウ病と無痛性甲状腺炎の症例から，両者の鑑別におけるSMIの有用性を検討した．
【結果】
亜急性甲状腺炎では，Bモードで低エコー領域として観察される破壊巣において，内部の微細血流の低下～消失，周囲の相対的な血流亢進を認めた．炎症の改善後，破壊巣内部の微細血流が増加した．バセドウ病では従来法に比較してbloomingが極めて少なく，低エコー領域内にも微細血流が描出された．無痛性甲状腺炎では破壊巣内部の微細血流の低下，周囲の血流亢進を認めた．軽症の甲状腺中毒症でTRAbが弱陽性，V mean peakが中程度高値であるような鑑別困難症例においても，SMIが一部有用な可能性が示された．
【考案】
SMIは一般的な超音波検査の延長線上で，簡便かつ明瞭に甲状腺実質の微細血流を評価できた．典型例のみでなく，従来法では鑑別に苦慮する症例でも有用な可能性が示唆された．