英文誌(2004-)
特別プログラム 甲状腺(JABTS)
特別講演 甲状腺 福島県における小児甲状腺がんについて
(S346)
福島県における小児甲状腺癌について
Childhood Thyroid Cancer in Fukushima prefecture
鈴木 眞一
Shinichi SUZUKI
福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座
Department of Thyroid and Endocrinology, Fukushima Medical University School of Medicine
キーワード :
2011年3月11日東日本大震災後東京電力福島第1原発で事故が発生し大量の放射性物質が大気中に放出された.放射線被ばくによる健康影響が取りざたされ,甲状腺がん発生に対する県民の不安は非常に強く,県民の健康を見守るために長期に渡る超音波による甲状腺検査が始まった.
事故当時18才以下に対して2011年10月9日より開始し,先行調査が2014年3月末に終了した.2巡目の本格検査も2014年4月から開始され2016年3月末で予定は終了し,同年4月からは3巡目(2回目の本格検査)が開始されている.
先行検査からは116名が悪性ないし悪性疑いと診断され,うち102名がすでに外科手術にて良性結節1名,乳頭癌100名,低分化癌1名と確定診断されている4).本格検査1回目では,細胞診で悪性ないし悪性疑いが57名で,30名がすでに外科手術を施行され,すべて乳頭癌と確定している.
これらの症例につき手術施行例の術式及び病期分類,遺伝子検査等について報告する.今回の手術例の診断・治療は欧米に比べ抑制的に実施されている.すなわち本学会で作成した精査基準を基に細胞診を実施している.5mm以下は一切細胞診をせず,5-10mmでは悪性を強く疑ったもののみ細胞診を実施している.また,手術適応は10mm以下では,強い希望例を除き,被膜外浸潤やリンパ節転移,遠隔転移が疑われている例に限り手術を勧めているため,術後病理結果でも大半にリンパ節転移,被膜外浸潤を認めた.ほとんどが乳頭癌でしかも通常型が大半を占めた.通常成人で非手術的経過観察を勧めるような症例はほとんど取り上げられていないため,いわゆる過剰診断治療には当たらないと考えている.また,現時点で得られている,被ばく線量,発症時年齢,地域差,病理組織型,遺伝子変異パターンなどの結果からは放射線の影響とは考えにくい.本来,被ばくの影響を見ていくための健診で在り,目的が単なる健康診断で生存率の向上を目的としているわけではないので,この健診の賛否を論ずる時にはここを明確に区別しないと混乱を招く恐れがある.
今後はこの結果を基にさらに過剰な診断治療にならないように現行の診断治療基準を遵守しながら,繰り返し健診を実施し,甲状腺に対する放射線の影響があるかないかについて見守っていく.