Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 乳腺(JABTS)
ワークショップ 乳腺 教育委員会 極めるシリーズ「Her2陽性乳癌」

(S337)

HER2陽性乳癌とは-病理の視点から-

What is HER2 positive cancer?: A pathological perspective

山口 倫, 赤司 桃子, 山口 美樹, 平井 良武, 田中 眞紀, 矢野 博久

Rin YAMAGUCHI, Momoko AKASHI, Miki YAMAGUCHI, Yoshitake HIRAI, Maki TANAKA, Hirohisa YANO

1久留米大学医学部病理学講座, 2JCHO久留米総合病院外科, 3JCHO久留米総合病院検査部

1Department of Pathology, Kurume University School of Medicine, 2Department of Surgery, JCHO Kurume General Hospital, 3Division of Clinical Laboratory, JCHO Kurume General Hospital

キーワード :

近年,乳癌は遺伝子学的解析における発現パターンによって,幾つかの“サブタイプ”に分かれることが明らかになった.“サブタイプ”は予後を反映し,治療に直結した分類であることから,現在臨床の現場に根付いている.遺伝子学的(intrinsic)サブタイプは,エストロゲンレセプター(ER)陽性と陰性の2つのグループに大別され,主に生物学的悪性度が比較的低いER陽性のluminal,生物学的悪性度が比較的高いER陰性のHER2過剰発現およびbasal-likeに分類される.
HER2は細胞表面に存在する糖蛋白で,乳癌においては予後因子である.HER2の過剰発現は,HER2標的治療薬のターゲットとなる.HER2蛋白は癌細胞の膜に局在し,免疫染色法では細胞膜に発現を認める.また,HER2遺伝子は,in situ hybridization法によってその増幅を判定する.各々の判定基準によって陽性とされた症例がHER2陽性乳癌であるが,実臨床[臨床的(clinical)サブタイプ]においてはER陽性HER2陽性(luminal HER2,luminal B)とER陰性HER2陽性(HER2過剰発現)の2つのタイプがある.
画像所見はこれまで組織型(腫瘍形態)と対比した報告が多く,特に本邦では規約分類の「乳頭腺管癌」「充実腺管癌」「硬癌」の3亜型が,画像所見を反映するものとして汎用されてきた.近年では組織型を表した腫瘍増殖形態(画像所見)とサブタイプとの関連性が示されている.例えば,リング状造影効果を示す腫瘍はtriple negative(TN)乳癌が多い.規約3亜型を基にした「乳頭腺管状あるいは乳管主体に増殖する癌」はluminalとHER2陽性乳癌が多く含まれる.「充実性に増殖する癌」はluminalとTN乳癌が主体である.低分化で予後不良と考えられていた,中心線維化を伴うような狭義の「硬性に増殖する癌」は,比較的予後良好なluminalが大半を占める.広義のものではHER2やTNが混在する(Tamaki K et al. Cancer Sci. 2010,2011.山口倫,玉城研太朗第105回病理学会総会シンポジウム).このように,腫瘍増殖形態にはサブタイプとの関連性が認められると同時に,規約3亜型には生物学的悪性度の異なるサブタイプが含まれる.これまでの通説であった「乳頭腺管癌」=高分化=予後良好,「充実腺管癌」=中分化=予後中間,「硬癌」=低分化=予後不良,は整理が必要かもしれない.
HER2陽性乳癌の病理学的特徴は意外に知られていない.80年代後半にcomedo壊死との関連が報告されたが(Van de Vijver MJ,et al. N Engl J Med.1988),その後これらに関する報告は少ない.その他の特徴として,癌細胞は異型高度でアポクリン分化を示し,高度の腫瘍リンパ球浸潤(TIL)を伴うことが多い,などが報告されている(Morita M, Yamaguchi R et al. J Clin Pathol. 2016).一般に治療医の関心は治療方針に関わるHER2陽性・陰性であり,また病理診断医とHER2判定医は異なることも多く,HER2を含めたサブタイプ別の病理像は未だ確立されていない.
今回のテーマはサブタイプ(HER2陽性乳癌)から腫瘍形態を考え,画像所見を考察することである.HER2陽性乳癌の特徴的な組織像とは?画像と対比できる所見はあるのか?を概説したい.