Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 乳腺(JABTS)
パネルディスカッション 乳腺2 特別企画 女性のライフサイクルと乳がん~啓発活動はどうあるべきか~

(S335)

乳がん啓発活動の現状と展望

Current status and future of advocacy in breast cancer

大野 真司, 小林 心, 片岡 明美, 北川 大, 荻谷 朗子, 坂井 威彦, 森園 英智, 宮城 由美, 伊藤 良則, 岩瀬 拓士

Shinji OHNO, Kokoro KOBAYASHI, Akemi KATAOKA, Dai KITAGAWA, Akiko OGIYA, Takehiko SAKAI, Hidetomo MORIZONO, Yumi MIYAGI, Yoshinori ITO, Takuji IWASE

がん研究会有明病院乳腺センター

Breast Oncology Center, Cancer Institute Hospital

キーワード :

「啓発」とは「人々の気がつかないような物事について教えわからせること」とされている(三省堂大辞林).乳がん啓発(ピンクリボン)活動は,乳がんで家族を失った人たちが,乳がんで悲しむ人をなくすために1980-90年代に世界各地で始まった活動である.
乳がんは世界の女性を襲う最も多い悪性疾患で,欧米女性の7-8人にひとりが罹患する.日本においては,2000年頃は30人にひとりと言われていたががん情報局の最新のデータでは11人にひとりと報告されている.一方乳がんは比較的予後の良い疾患で,病気の進行度と予後は相関し,早期乳がんの予後は良好である.特にマンモグラフィ検診による予後改善効果の科学的根拠が示されており,欧米での検診受診率は極めて高い.しかし日本のマンモグラフィ検診受診率は目標とされる50%にはいまだに到達していない.したがって日本の乳がん啓発活動はマンモグラフィ検診受診率の向上を目指したものが少なくない.
ところが欧米における乳がん啓発活動は検診に関するものではなく,乳がん患者・体験者のサバイバーシップ支援と基礎・臨床研究および臨床試験推進のための寄付活動といっても過言ではない.米国では国民の20人にひとりががんサバイバーであり,女性のがんサバイバーの41%が乳がんである.日本では正確な報告はないもののほぼ同程度で約100万人と推測される.乳がんは比較的罹患年齢が若く,患者は年齢や生活状況に応じてさまざまな課題を抱えている.それをどう社会として支えていくのかは極めて重要である.一方基礎・臨床研究と臨床試験なくして,明日の乳がん医療の発展はありえない.今日救えない命が明日は救えるようになるために研究と試験は必須であるが,そこには膨大な費用がかかり公的資金だけでは不十分である.自分たちの命,次の世代の命を守るために,欧米では乳がん啓発活動による寄付が研究と試験の推進に大きな役割を果たしている.また最近では治癒が困難とされる進行・再発乳がん患者(Metavivor)を支援し,進行・再発乳がん治療のための研究や試験への寄付を目的とした啓発活動も進められている.
わが国の乳がん啓発活動は20年足らずの歴史であるが,まだ早期発見のためのマンモグラフィ検診を訴える域を打破できない状況にある.これからはぜひともサバイバーシップ支援と研究と臨床試験のサポートに力を注がれることが切に望まれるところである.