Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 小児
シンポジウム 小児 小児救急における超音波検査をどう利用するか:有用性とピットフォール

(S320)

小児救急における超音波検査の適応拡大

Expanded indications of ultrasonography in pediatric emergency

福原 信一

Shinichi FUKUHARA

兵庫県立淡路医療センター小児科

Department of Pediatrics, Awaji Medical Center

キーワード :

内外で適応が拡大している小児救急における超音波検査の中で,近年になり認知度が高まりつつあるものの,国内では実施される頻度が高くないと思われる対象臓器への超音波検査と処置における超音波検査について,述べてみたい.
救急領域での超音波検査は,超音波機器をベッドサイドに持ち込み,即座に走査するPoint-of-Care Ultrasoundとしても認識されている.海外の小児救急領域でのPoint-of-Care Ultrasoundは,被爆の軽減,肺炎・骨折などの診断,処置の成功率・安全性の向上,診察時間の短縮などに有用であり,正確で迅速な診断,処置の補助としての役割が増大していると位置付けられている.
海外での救急領域における超音波検査の適応は過去30年の知見を元に拡大した.米国救急医学会は,超音波検査の対象臓器・病変として,循環器・腹部臓器以外に,肺,軟部組織,筋骨格,眼球,深部静脈血栓などを掲げ,超音波検査を用いる処置としては,気管挿管の確認,中心静脈確保,胸腔穿刺などを挙げている.小児救急領域でも,小児救急に関わるレジデントが修得すべき超音波検査の項目として,ほぼ同様の臓器と処置が挙げられている.
肺は従来,超音波検査では観察できない臓器として扱われてきた.Lichtensteinらの業績を経て,気胸・間質病変・肺炎などの病変が検出可能であり,小児でも同様の所見が得られることが判明した.過去20年間にエビデンスが蓄積し,肺炎の浸潤陰影検出においては,良好な感度・特異度を示している.レントゲン検査よりも迅速に所見を得ることができる超音波検査の検査技能の修得により,急性呼吸不全患者の病態評価を,短時間で,より正確に行うことが可能となる.
軟部組織に関しては,蜂窩織炎の診断における超音波検査の有用性が報告されている.骨折などの病変では,感度・特異度とも優れており,外傷診療に関わる小児科医には,その習熟が望まれている.
気管挿管による気道確保の確認のための超音波検査については,国際的な蘇生ガイドラインの中でも取り上げられている.気道を含む頚部組織の構造を捉えることで,短時間で気管挿管の確認が可能であり,気管挿管に関わる可能性のある一般小児科医が身に着けておくべき技術である.
血管確保においては,血管径の小さい小児では,成人以上に超音波検査を用いることは有用と考えられている.中心静脈確保における合併症の減少,処置時間の短縮,心タンポナーデ・血胸などの合併症の早期発見などに関して有効性が報告されている.動脈圧ライン・末梢静脈ラインの確保にも適用可能である.
これらいずれの臓器病変の検出感度も100%には至らず,処置の安全性向上には超音波検査を含む処置の技能習熟が必須である.
対象臓器・応用できる処置の拡大した小児救急における超音波検査をより有用なものとするためには,個々人の技術習得のための教育が必須である.米国での小児救急に関わる医師への教育として推奨されているのは,まず講習会を受講した後に,短期間に小児を対象とした走査を行って経験を重ね,達成度を教育者が評価するものである.その後は,長期間に渡る検査・処置の経験や知識の修得により,更に技能を向上させることが可能となる.推奨される講習会の内容としては超音波検査の基本的知識・機器の操作・講義・実習などが含まれる.海外では,既に多くの学会が講習会を開催してきた実績があるが,国内での歴史は浅く,今後の展開が期待されている.