伊藤 恵, ABOELLAIL Mohamed, 山本 健太, 金西 賢治, 田中 宏和, 正岡 博, 秦 利之

Megumi ITO, Mohamed ABOELLAIL, Kenta YAMAMOTO, Kenji KANENISHI, Hirokazu TANAKA, Hiroshi MASAOKA, Toshiyuki HATA

¹香川大学医学部附属病院周産期女性診療科周産期学婦人科学, ²正岡病院産婦人科

¹Perinatology and Gynecology, Kagawa University Graduate School of Medicine, ²Perinatology and Gynecology, Masaoka Hospital

キーワード :

【緒言】
HDliveFlowはHDliveのサーフェス技術を3Dドプラに適用したアプリケーションで，胎盤血流や胎児の心臓の血流，脳血管など全身の血管をより立体的に表示することができる．本法は胎児心奇形の出生前診断において，2D超音波により客観性を持たせ，空間的な認識が可能になる．今回我々は，正常胎児心構造および先天性心奇形の診断においてHDliveFlow power Dopplerがいかに有用であるかについて検討したので報告する．
【方法】
妊娠22週から34週の正常単胎例49例と，妊娠32週の完全大血管転位症，妊娠30週の左心低形成症候群，妊娠31週の肺動脈狭窄症を対象としHDliveFlow power Doppler（Voluson E10; GE healthcare Japan）により観察した．正常例については，Spatial three-vessel view（上大静脈，大動脈，肺動脈の空間的配列について上方より観察した断面）Panoramic view（左斜め前方より胎児心臓を観察する断面で，心房，心室，肺動脈，動脈管，大動脈弓，下行大動脈までの全体像として心臓を観察できる断面）の描出率について検討した．先天性心奇形例は上記2つの断面を用い，いかにその診断が容易となるかについて検討した．
【結果】
正常単胎例でのSpatial three-vessel viewの描出率は87.8％（49例中40例），Panoramic viewのそれは71.4％（49例中35例）であった．完全大血管転位例では，HDliveFlow power Dopplerで右室から流出する大動脈と左室から流出する肺動脈が平行に走行する病態が空間的に明瞭に観察できた．左心低形成症候群例では，非常に細い大動脈および大動脈弓，右室から流出する拡張した肺動脈と動脈管が立体的に観察できた．また，大動脈峡部が明瞭に描出された．肺動脈狭窄症例では，拡張した肺動脈が大動脈とクリスクロスするのが明瞭に観察できた．なお，大動脈径は5.7mm，肺動脈径は10.9mmであり，肺動脈血流速度は246.5cm/sであった．
【考察】
HDliveFlow power Dopplerを使用することで，胎児の心房・心室，主要大血管，静脈系の評価がより客観的に行うことができるようになり，先天性胎児心疾患の空間的・立体的な認識が容易になることが判明した．産婦人科医や小児循環器医にとって，先天性心疾患の出生前診断の補助診断法としてHDliveFlow power Dopplerは新しい強力な武器となることが期待される．