Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科1 生殖医療における超音波の意義と再評価

(S308)

生殖医療における子宮血流および卵巣(黄体)血流と機能

The uterine blood flow and the ovarian (corpus luteum) blood flow in reproductive medicine

田村 博史, 白蓋 雄一郎, 三原 由実子, 品川 征大, 松浦 真砂美, 李 理華, 前川 亮, 杉野 法広

Hiroshi TAMURA, Yuichirou SHIRAFUTA, Yumiko MIHARA, Masahiro SHINAGAWA, Masami MATSUURA, Lifa LEE, Ryo MAEKAWA, Norihiro SUGINO

山口大学大学院医学系研究科産科婦人科学

Department of Obstetrics and Gynecology, Yamaguchi University Graduate School of Medicine

キーワード :

女性生殖器では,卵巣における卵胞発育,排卵,黄体形成,あるいは子宮における内膜の増殖,発育,脱落膜化といった短期間に起こる形態的・機能的な変化によって,受精・着床といった極めて劇的な現象を可能としている.このような形態的・機能的変化には血流が重要な役割を担っていることは言うまでもなく,血流と子宮や卵巣機能の関係を明らかにすることは,生殖医療において病態の解明や新たな治療方法の確立につながる.我々は,子宮内膜血流および黄体血流について研究をすすめている.
子宮内膜が薄い症例では妊娠率が低いことが知られており,難治性の不妊症としてその対応に苦慮している.我々は,子宮内膜発育に関与する子宮血流,子宮内膜の血管新生に着目し,“薄い子宮内膜”の病態の解明に取り組んできた.子宮血流の評価は,子宮内膜厚に相関の高い子宮放射状動脈を用い,薄い子宮内膜症例では,月経周期を通して子宮放射状動脈血流が不良であることを見出した.組織学的に腺上皮面積率,血管数の計測,血管新生促進因子Vascular endothelial growth factor(VEGF)発現,さらには薄い子宮内膜の発現遺伝子をマイクロアレイで解析した.薄い子宮内膜では,子宮放射状動脈の血流不良から始まり,子宮内膜腺上皮の発育不全,子宮内膜におけるVEGF発現の低下および血管数の低下が重要な病態であることを明らかにした.さらにnatural killer(NK)cellの細胞障害性亢進,炎症性サイトカイン増加,酸化ストレス反応の低下といったpathwayが,薄い子宮内膜の着床障害に関与している可能性を明らかにした.
排卵後に形成される黄体は,VEGFによる血管新生,アンギオポイエチン系およびペリサイト(血管壁細胞)による血管成熟安定性の獲得によって,十分なコレステロールの供給と産生したプロゲステロンの輸送といった機能的な血管網が構築される.黄体周囲の血流(血管抵抗)は,排卵前に比較して,排卵後の黄体初期から中期にかけて低下し,黄体期後期には再度上昇する.黄体期中期の黄体周囲血管抵抗と血中プロゲステロン値は負の相関を認め,黄体機能不全,未破裂黄体化卵胞(LUF)症例では黄体期中期の黄体周囲血管抵抗は高値を示した.また,妊娠が成立した症例では,黄体期後期の黄体周囲血管抵抗は低値のままで,妊娠7週まで低値を維持した.
子宮内膜が薄い子宮内膜発育不全症例や黄体機能不全症例に対して,ビタミンEなどの血流改善作用のある薬剤を用いた臨床応用も試みている.