Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 呼吸器
シンポジウム 呼吸器 呼吸器超音波のこれまでとこれから

(S292)

Point-of-care ultrasoundによる気胸の診断

Diagnosis of pneumothorax with point-of-care ultrasound

亀田 徹

Toru KAMEDA

安曇野赤十字病院救急科

Department of Emergency Medicine, Red Cross Society Azumino Hospital

キーワード :

【はじめに】
超音波装置の小型化により,まさに聴診器のように超音波で肺の評価ができるようになった.国際的には2000年頃から救急医や集中治療医により外傷性気胸の超音波診断の有用性が報告されるようになり,本邦でも救急・集中治療領域を中心に利用されるようになってきた.気胸の診断においては,超音波は聴診や胸部X線よりも精度が高いことが示されている.
【Lung sliding】
壁側胸膜と臓側胸膜が接する部位は高輝度線状影として描出され,pleural line(本邦ではpleural echo complex)と呼ばれる.また呼吸性に臓側胸膜の動く様子はlung slidingと呼ばれる.気胸ではlung slidingは観察されない.肺の呼吸性変動の消失や減少,胸膜の癒着でもlung slidingは観察されないので,lung slidingの消失のみでは気胸とは断定できない.一方,プローブを胸壁に対して動かないように保持しながら,lung slidingが観察される部位をMモードで記録すると,pleural lineより浅部の胸壁では平行線が描出され,pleural lineより深部の多重反射には呼吸性に動揺が起こり,海辺に見立ててseashore signと呼ばれる.気胸では浅部と同様,pleural lineの深部でも平行線のみ層状に描出され,stratosphere signと呼ばれる.
【B-lines】
正常肺では,pleural lineより深部の画像は多重反射で構成される.Pleural lineから画像の深部に伸びる線状アーチファクトが観察されるが,そのうち「pleural lineを起点に,レーザーのように減衰することなく真っ直ぐに画像の下端まで伸びる,高輝度多重アーチファクトで,lung slidingと同調して動く」所見はB-linesと呼ばれる.B-linesは健常者でも散発的に観察されるが,間質の浮腫や炎症性肥厚,肺胞内液体貯留で顕在化する.肺が壁側胸膜から離れる気胸のある部位ではB-linesは描出されない.B-linesは健常肺では目立たないので,B-linesがなくても気胸とは断定できない.
【Lung point】
Lung pointは,壁側胸膜と臓側胸膜が接している部分と離れている部分との境界を指し,気胸に特異的な所見であることが明らかにされている.双方の胸膜が接する部分ではlung slidingが観察されるが,接しない部分では観察されず,lung pointが呼吸性に移動する様子をとらえることができる.ただし肺が完全に虚脱していればlung pointは確認できない.
【Lung pulse】
胸膜の癒着などでlung slidingが観察されない場合には,肺を介して心拍動がpleural line上に伝わる様子が観察され,lung pulseと呼ばれる.気胸ではこのサインは観察されない.
【実際の活用】
気胸の診断は上記で述べた所見を順次確認していくことが国際的には推奨されている.しかし以下のように簡便に判断する場合も少なくない.肺や胸膜に基礎疾患がないと予測される場合は,仰臥位にして鎖骨中線上でlung slidingを評価する.胸膜に癒着がない気胸のケースでは,仰臥位では前胸壁側に空気が集まるので,鎖骨中線上での観察だけでも臨床決断に有用と考えられる.
【考察】
肺の画像診断のスタンダードである胸部X線とCTが利用可能な現状において,気胸の超音波診断の位置づけは本邦では明確になっていない.気胸の診療において,①仰臥位胸部X線よりも感度が高いこと,②胸部X線やCTよりもすぐに所見が得られること,③胸部X線やCTとの使い分けで放射線被ばくを減じることができること,④モニタリングや経過観察として繰り返しベッドサイドで行えること,③胸部X線が施行しにくい院外での活用が容易であること,以上の観点からベッドサイドにおける気胸の超音波診断の位置づけを検討していくのが妥当と考えられる.