Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 呼吸器
シンポジウム 呼吸器 呼吸器超音波のこれまでとこれから

(S290)

呼吸器超音波診断の領域成立のころと今後の課題

The Era of Establishment of Diagnostic Ultrasound for Respiratory Disease, and Future Task

名取 博, 五十嵐 知文, 中田 尚志

Hiroshi NATORI, Tomofumi IGARASHI, Hisashi NAKATA

1札幌医科大学名誉教授, 2西岡病院名誉院長, 3社会医療法人恵和会西岡病院副院長, 4函館厚生院五稜郭病院呼吸器内科部長

1Professor emeritus, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, 2Honorary Director, Nishioka Hospital, Sapporo, Japan, 3Director Deputy, Nishioka Hospital, Sapporo, Japan, 4Director, Department of Respiratory Disease, Hakodate Goryoukaku Hospital, Hakodate, Japan

キーワード :

林,和賀井,宮沢らによるA-modeを用いた「超音波による肺腫瘍診断」の外科学会追加発言1958年,が呼吸器領域への応用の端緒となっています.海外では1964年にGordonがAモードにより肺塞栓・肺梗塞症の無気肺と胸水を検出したとする報告があります.骨性胸郭と含気性肺に阻まれる経胸壁アプローチを避けた体腔内超音波診断では1966年田中元直らが硬性鏡型経気管・経食道回転プローブによる超音波2D画像撮影は侵襲性の高さゆえに普及には困難が伴っていました.その後の呼吸器領域の展開について田中がまとめています.自治医大の名取,玉城,吉良らは1979年に「胸部呼吸器への応用」を雑誌臨床検査に,1981年に雑誌日本胸部臨床に12回シリーズで「呼吸器領域の超音波診断」発表し,学会編集の単行本に呼吸器領域の章が設けられました.当時既に今日の本領域の大部分をカバーし,体腔内診断では回転型細径プローブを循環器に先駆けて気管支内,大動脈経由で応用し,超音波内視鏡も開発されていました.
当時も今も課題の一つは壁側・臓側胸膜の超音波画像認識です.含気性肺では肺胞エコーにマスクされて臓側胸膜は見えません.胸壁・肋間からの観察では,臓側胸膜の外側には薄い胸膜外脂肪層が見え,通常は微量で見えない正常胸水層,臓側胸膜,肺胸膜下組織,含気性肺胞があります.肺炎,肺癌の末梢に含気を失った肺があるときには壁側胸膜と臓側胸膜が重なって静止画像では一層に見え,その深部に含気を失った肺が見えます.動画像では呼吸により,一層になった胸膜層の内側つまり臓側胸膜が呼吸性移動し,外側の臓側胸膜は静止していますが,探触子は呼吸性に動く胸壁に張り付けたように置き,胸壁と探触子の相対位置を動かさないことが重要です.正常胸水が僅かに増した病態では座位横隔膜近傍では壁側胸膜・胸水層・臓側胸膜の三層が見えます.三者が一層になっているときには「胸膜エコー複合体」(pleural echo complex)と表現しています.
呼吸器領域では医師が自ら探触子を握ってベッド・サイドで診断してきました.今後,超音波画像所見の知識の連携・共有,body mark,撮影体位の表示,用語等に関する各研究チーム間の情報交換の機会を活かし,本領域の進歩・普及を期待しています.
【参考文献】
名取 博,中田尚志,五十嵐知文,鈴木 明.超音波診断法.太田保世,諏訪邦夫,堀江孝至,吉村博邦編.超音波診断法の呼吸器疾患への応用.Annual Review呼吸器1987. 東京,中外医学社,1987:71-80.