Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器横断領域2 「温故知新」の超音波所見に挑む~サインやアーチファクトの検証~

(S286)

「温故知新」の超音波所見 Flag sign,櫛状エコー,簾状エコーについて

Flag sign, Hairbrush sign and "bamboo blind" sign

若杉 聡, 梅木 清孝, 保坂 祥介, 佐藤 晋一郎, 田中 みのり, 石田 秀明

Satoshi WAKASUGI, Kiyotaka UMEKI, Shousuke HOSAKA, Shinichirou SATOU, Minori TANAKA, Hideaki ISHIDA

1千葉西総合病院消化器内科, 2千葉西総合病院生理検査室, 3秋田赤十字病院消化器内科

1Department of Gastroenterology, Chibanishi General Hospital, 2Department of Medical Technology, Chibanishi General Hospital, 3Department of Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital

キーワード :

【はじめに】
「温故知新」とは「古きをたずねて新しきを知る」という意味である.われわれが報告した櫛状エコーやIshidaらが報告したflag signは,「古い所見」ではある.しかし,これらを踏まえて,近年話題になっている簾状エコーとの異同を考察することは非常に重要である.まさに「温故知新」である.
【櫛状エコー】
1999年にわれわれが報告した.7.5MHzアニュラアレイプローブで肝表面を観察したところ,従来の3.75MHzや3.5MHzのコンベックス型探触子で観察したときにくらべて,肝表面の凹凸が鮮明に観察できた.さらに,肝硬変症例において,肝表面の凹凸の凹の部分から低エコー帯が観察された.これを櫛状エコーとした.櫛状エコーは肝硬変で出現しやすく,とりわけ肝硬変の線維性隔壁が強い症例で出現した.さらに,剖検肝の水浸下超音波検査において櫛状エコーの再現を試みた.櫛状エコーが出現した症例で,櫛状エコーの部分に針でマーキングして,その部分の病理組織像を観察したところ,線維性隔壁が存在した.以上より櫛状エコーは線維性隔壁の厚い肝硬変症例において出現し,肝表面の凹の部分から出現する低エコー帯と考えた.
【Flag sign】
1988年にIshidaらが報告した.肝表面から肝実質にむかう帯状の低エコーである.皮下脂肪組織と肝表面では,音速が肝表面の方が速い.肝硬変になると,肝表面に凹凸が生じる.皮下脂肪組織から肝へ超音波が進む際,肝表面に凹凸があると,屈折が生じる.その結果,凸の部分の下では超音波ビームが疎になり,凹の部分では超音波ビームが密になるため,主に肝表面の凹凸の凸の部分から低エコー帯が出現するとした.
【簾状エコー】
2016年,神山らが報告した.70%以上の脂肪肝において肝表面から出現する簾状の低エコー帯である.高度な脂肪肝の実質と血管との間の屈折が強くなるため生じるとされ,必ずしも肝硬変でなくても,高度な脂肪肝で出現する.逆に肝硬変であっても高度な脂肪肝がなければ出現しないとされる.
【3所見の異同について】
われわれが報告した櫛状エコーはアニュラアレイプローブで観察した画像での報告である.アニュラアレイプローブは腹部超音波のスクリーニングに使用されるコンベックス型探触子にくらべて,あきらかに肝表面の凹凸が鮮明に描出される.したがって,肝表面の凹の部分から出現する所見と定義できた.一方,Ishidaらのflag signは,われわれの報告の10年以上前に肝表面の凸の部分から出現する低エコー帯として報告された.櫛状エコーを発表した際,flag signとの異同について討論があったことは事実である.Flag signは,出現の原因を基礎工学から説明可能である.櫛状エコーは出現機序を説明できないが,解像度の高い探触子で観察していること,水浸下超音波検査でマーキングした結果から線維性隔壁に由来しているとしていることが大きな違いである.また両所見とも,肝硬変において出現するとされている.これらをふまえて簾状エコーを論じるべきである.簾状エコーは脂肪肝の高度なものにおいて出現し,血管と周囲脂肪肝組織との屈折によって出現するもので,櫛状エコー,flag signとは異なる.
【考察と結語】
近年,用語の誤用が問題になっている.櫛状エコーについて,Flag signと混同している場合やアルコール性肝障害において出現すると誤解する場合などが多くみられ,「言葉の独り歩き」が生じているように思われる.今後,上記3所見の異同を明確にしたうえで,超音波医学会の用語委員会で諮って,用語集に掲載していただければ幸いである.