Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器横断領域2 「温故知新」の超音波所見に挑む~サインやアーチファクトの検証~

(S283)

脂肪肝実質に出現する簾状エコーの考察から得られた外側陰影アーチファクトの解釈

Mechanism of lateral shadow artifact considered from bamboo blind sign observed on fatty liver image

神山 直久, 住野 泰清, 金山 侑子, 大栗 拓真, 丸山 憲一

Naohisa KAMIYAMA, Yasukiyo SUMINO, Yuko KANAYAMA, Takuma OGURI, Kenichi MARUYAMA

1GEヘルスケア・ジャパン株式会社超音波製品開発部, 2東邦大学医療センター大森病院消化器内科, 3東邦大学医療センター大森病院臨床生理機能検査部

1Ultrasound Division, GE Healthcare, 2Dept of Gastroenterology and Hepatology, Toho University Omori Medical Center, 3Dept of Clinical Functional Physiology, Toho University Omori Medical Center

キーワード :

【はじめに】
我々は,高度の脂肪肝やNASH症例でB-mode像に高頻度に観察される,簾状エコー(BBS)の発生機序について検討を行い,高度脂肪肝により音速が低下した肝実質と血管内血液間の屈折現象が一つの要因となっていることを報告した(神山他.超音波医学,43(5)655-62,2016).今回は本考察に不可避な外側陰影アーチファクトの発生機序について改めて検証を行った.
【方法】
今回,直径3 cmのラバー製チューブを用いて実験を行うことで,実質的にBBS現象を拡大して再現し,詳細を観測することが可能となる.水槽に食塩水を入れたラバーチューブを水浸させ,その断面をB-modeで観察する.周囲の水にはグラファイト粉末を混入し,散乱体として機能させる.これによりチューブ周囲の音速が相対的に小さくなる実験モデルを作る.この時,周囲の水の音速は1500 m/s,食塩水の音速は可変としたが飽和水溶液状態では1680 m/sであった.なお別の実験では,上記媒質を逆にすることで,周囲音速が大きくなるようにした.装置はLOGIQ E9,プローブは9L-Dのリニアスキャン,8.4 MHz Tissue harmonic imagingを使用.また本実験の画像を模擬した走査線毎の屈折現象の簡易的シミュレーションをC++で作製し比較した.
【結果と考察】
チューブ周囲の音速が小さい状態でチューブ両端に外側陰影が発生した(図1).グラファイト部に強反射体(金属棒)を入れると外側陰影部に棒のエコー信号が確認された(図1矢印).また屈折のみを考慮したシミュレーションでは外側陰影の発生する余地はなかった.このことより外側陰影は,送信波の入射角が臨界角以上の時に全反射し,その際の壁形状が凸型であるため,音波の散乱減衰が増大するために発生することが示唆された.シミュレータで臨界角による全反射のモデルを付加すると,実験同等の画像が得られ,(教科書等で見られる)走査線の伝搬経路の模式図は外側陰影の説明には不相応であることも示唆された(図2).音速差を逆にした実験系では明瞭な外側陰影は観察されなかった.これは,屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ進む場合は臨界角が存在しない,という理論とも一致する.
【結語】
外側陰影は周知のとおり屈折現象によって起こるが,それは走査線経路の形状で説明するのではなく,臨界角による説明がより適切である.脂肪肝実質と血管で起こる簾状エコーの発生機序は,本実験と整合性を持つものである.