Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器横断領域1 腹部領域におけるPoint of care ultrasound ~minimum requirementは何か~

(S281)

Point-of-care ultrasoundと系統的超音波検査双方に従事する者として

The proposals from a doctor engaged in both point-of-care and comprehensive ultrasound

亀田 徹

Toru KAMEDA

安曇野赤十字病院救急科

Department of Emergency Medicine, Red Cross Society Azumino Hospital

キーワード :

当方は,救急医としてベッドサイドでポータブル装置を用いて,様々な領域の超音波を施行している.腹部領域については,時間的な制約,ポータブル装置の性能,想定される疾患を考慮し,多くの場合は観察部位を絞り「point of care」で超音波を行っている.一方,超音波専門医としては,検査室で各診療科からの依頼に基づき,系統的腹部超音波検査を行っている.双方の従事者として,「救急室」と「超音波検査室」,「診療の一環」と「検査に専心」,「ポータブル装置」と「高性能装置」,「様々な研修者への教育」と「超音波に関心の高い研修者への教育」という対比は意識せざるを得ず,モードを切り替えて超音波診療に臨んでいるつもりである.腹部領域のpoint-of-care ultrasound(POCUS)と系統的超音波検査双方の診療と教育に関わる者として,エビデンス,国際的な潮流,ユーザーのニーズを鑑み,腹部領域のPOCUSのminimum requirementについて考えてみたい.
本邦では昔から「ベッドサイドエコー」,「ちょいあてエコー」といった言葉があり,ベッドサイドにおいて様々な様式で超音波は行われてきた.しかしながら,特に救急やプライマリケア,初期臨床研修においては,その多くは個人の裁量によるところが大きく,得られた所見の評価やフィードバック,情報の共有は不十分であった.より客観性の高いCTの普及も手伝って,この領域の在り方については論点が見出しにくく,積極的な議論が行われることはなかった.一方欧米では,超音波装置へのアクセスが容易になったことがきっかけになり,当初は救急医や集中治療医が行う超音波に関心が払われるようになった.そして数多くの臨床研究を通じてエビデンスが示され,ガイドラインや教育システムの形成を通じ,主に急性期診療においてPOCUSの枠組みが示されるようになった.POCUSにおいては,①超音波を専門にしない臨床医が一定のトレーニングで習得が可能で,日常診療で技量の維持が可能,②診療の一環として短時間で施行可能,③対象となる疾患の頻度・緊急度が高い,④臨床決断に有効(rule inやrule outとして,他の画像診断の代用など),⑤経過観察に有用,⑥患者ケアの改善につながる,といった観点でminimum requirementが設定されるべきであろう.その際POCUSの限界やピットフォールについての理解,啓蒙も必要になってくる.
欧米において一定のコンセンサスが得られている救急領域の腹部POCUSとしては,①腹腔内出血・腹水,②水腎症,膀胱容量,③胆石,急性胆嚢炎,④腹部大動脈瘤が挙げられる.また性状診断よりも存在診断に主眼が置かれ,rule in,rule outとして利用するか,どのようにdecision treeに組み込むかはそれぞれの特性に基づいて検討される.近年では,腸閉塞,虫垂炎,腸重積の存在診断についても注目されている.
現状ではこれらを参考に,初期臨床研修医の到達目標,急性期診療・プライマリケアを支える臨床医が日々の診療で実際に活用できるレベルとしてminimum requirementを設定するのが先決と考えられる.またその設定にあたっては,いわゆる超音波専門医と,急性期診療・プライマリケアの最前線で診療と教育を行う臨床医との間で議論が不可欠であり,腹部領域の専門医にとってのminimum requirementとは分けて検討する必要があると考えられる.
【参考文献】
Kameda T, et al. Overview of point-of-care abdominal ultrasound in emergency and critical care. J Intensive Care 2016; 4: 53.