三浦 隆生, 小川 眞広, 熊川 まり子, 渡邊 幸信, 塩澤 克彦, 阿部 真久, 竜崎 仁美, 長沼 裕子, 石田 秀明, 森山 光彦

Takao MIURA, Masahiro OGAWA, Mariko KUMAGAWA, Yukinobu WATANABE, Katsuhiko SHIOZAWA, Masahisa ABE, Hitomi RYUUZAKI, Hiroko NAGANUMA, Hideaki ISHIDA, Mitsuhiko MORIYAMA

¹日本大学病院消化器内科, ²秋田赤十字病院超音波センター, ³横手市民病院消化器内科

¹Gastroenterological medicine, Nihon University Hospital, ²Center of diagnositic ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ³Gastroenterological medicine, Yokote Municipal Hospital

キーワード :

【目的】
Point-of-care testing（POCT）というアメリカで導入された検査における概念が，現在超音波診断装置を用いたPoint of care ultrasound（以下POCUS）として注目されている．元々POCTとは検査室を出て，患者の傍で行う検査の意味であり，近年の超音波装置の小型化，携帯化はまさにPOCUSのためにあると言っても過言ではない．すでに欧米ではInternational federation for emergency medicineよりPOCUSのガイドラインが作成されているが，同ガイドラインは救急医療における多領域臓器の緊急疾患に対するスクリーニング評価が基本であり，それによるトリアージ，検査の組み立てが主な目的となっている．これまで本学会を含め，本邦にて発展を遂げている超音波医学は主に系統的USとして各々に専門性を高めているという背景があり，また，施設間で機器，検者の技術に関して偏りがあることもPOCUSとしてプロトコール化を行う妨げとなっている．われわれはこれまで臨床の場で携帯型超音波を積極的に用いて病棟・外来医療を行っており，その結果から消化器領域のPOCUSの意義，限界，有用性を検討したので報告をする．
【方法】
当院における消化器科の各病棟グループの研修医および外来担当医に日常の診療において各1台の携帯型超音波診断装置を携帯させている．その診療記録より超音波検査を行った対象臓器，使用目的，超音波所見について拾い上げ，消化器領域におけるPOCUSの有用性と意義について検討を行った．対象は，平成24年1月以降当院の消化器医が病棟，外来でポケットエコーを用いて超音波診断を行った症例を対象とした．使用機種：GEヘルスケア社V-scan ver1.2，V-scan Dual Probe．
【結果】
対象臓器は，胆道24.5％，肝21.7％，体腔20.9％，心臓10.3％，消化管5.0％，血管4.5％，腎臓4.5％，膵臓3.0％，子宮1.7％，膀胱1.7％脾臓1.4％，前立腺0.8％であり最も胆道疾患の評価が多かった．使用目的の検討では，①関心臓器の観察83％，②留置チューブ等の評価13％，③スクリーニング4％であった．Point of careとして行われた超音波検査は外来診療で行う場合，多くが有症状に対するUSであり想定できうる疾患の鑑別診断と病態把握のための重症所見の除外診断もこれに含まれていた．このほかには，病棟診療で行うPOCUSには治療に対する治療効果判定や偶発症発症の早期確認，留置チューブの位置確認および管理，体腔液の穿刺補助など多岐にわたっていた．
【考察】
今回消化管疾患が少ない傾向を認めたが，これは高周波プローブを搭載する前のdataがあり，高周波プローブも用いる事で消化管疾患に対しても施行可能な領域が最近では増加していた．腹部領域におけるPOCUSは，系統的USの基準が高まっている中，装置の性能から考えても“けんしん”やがんの早期発見などのスクリーニング検査には適していないと考えられた．一方観察領域（疾患）や使用目的には幅広いことが確認され血圧計や聴診器と同様触診の診療補助具としての利用が多く，その診断精度が高まる点では早期の診断・治療に貢献し極めて臨床的有用性は高かった．また，近年の医師の超音波検査離れを考慮すると，診療の一環としてPOCUSの導入は，POCUSが超音波検査に馴染む動機付けとなる可能性が高く今後の超音波教育の面でも期待できると考えられた．