鈴木 康秋, 仙波 佳祐, 小林 裕, 久野木 健仁, 芹川 真哉, 杉山 祥晃, 澤田 康司, 奥村 利勝

Yasuaki SUZUKI, Keisuke SENBA, Yuu KOBAYASHI, Takehito KUNOGI, Shinya SERIKAWA, Yoshiaki SUGIYAMA, Kouji SAWADA, Toshikatu OKUMURA

¹名寄市立総合病院消化器内科, ²旭川医科大学消化器・血液腫瘍制御内科

¹Gastroenterology, Nayoro City Genaral Hospital, ²Gastroenterology and Hematology/Oncology, Asahikawa Medical University

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【はじめに】
肝血管筋脂肪腫（HAML）は比較的稀な腫瘍であるが，近年報告例が増加している．典型例では，血管成分を反映してhypervascularであり，脂肪成分を反映して超音波検査で高エコーを呈し，MRI位相コントラスト画像で検出されるため画像診断は容易である．しかし，脂肪成分を有さない非典型例では診断は困難な事が多い．このような場合，肝静脈へドレナージする流出血管の早期描出（early venous drainage）が診断に有用といわれている．今回我々は，造影超音波でearly venous drainageが描出された典型的HAMLと，造影Vascular Recognition Imaging（VRI）が診断に有用であった非典型的HAML（脂肪成分を認めないFat-deficient HAML）を経験したので報告する．
【症例1】
50歳代・女性．心窩部痛で近医を受診し，超音波にて肝S7に径25mmの腫瘤を指摘され紹介．血液生化学検査では特に異常を認めず，肝炎ウイルス陰性，腫瘍マーカー陰性であった．造影CTでは早期に不均一に強く造影され，washoutを認めた．MRIではT1 low, T2不均一highであった．超音波では，内部に低エコー領域を有する不均一な強い高エコー性腫瘤を認め，ドプラにて低エコー領域にflow signalを認めた．造影超音波では，早期血管相で蛇行状に流入する腫瘍血管を認め，早期に強く全体が濃染し，右肝静脈に流出するearly venous drainageが描出された．血管造影でも同様の所見を認め，HAMLと診断した．患者の希望にて肝切除を施行し，病理学的確定診断が得られた．
【症例2】
70歳代・女性．スクリーニング超音波にて肝S3に径40mmの低エコー性腫瘍を指摘され紹介．血液生化学検査では特に異常を認めず，肝炎ウイルス陰性，腫瘍マーカー陰性であった．造影CTやMRIでは早期濃染とwashoutパターンであり，脂肪成分は検出されず，通常の造影超音波（PS-low法）でも肝細胞癌（HCC）を疑う所見を呈した．良性多血性肝腫瘍との鑑別目的で，腫瘍血管の詳細な観察のために，造影VRIを施行した．造影VRIでは，高速の腫瘍流入血管と低速の腫瘍perfusion血流，さらに早期から左肝静脈に流出するearly venous drainageが明瞭に分離されて描出された．このため，脂肪成分の少ない肝血管筋脂肪腫を疑い，肝腫瘍狙撃生検を施行して組織学的確定診断に至り，手術を回避し得た．本症例は多血性であり，画像検査および組織病理所見で脂肪成分が検出されず，HCCとの鑑別が困難であったが，造影VRIのearly venous drainage所見が診断に有用であった．
【考察】
我々が集計したHAML本邦報告132例135例の検討では，超音波で高エコーは74％，造影CTで濃染が93％であった．血管造影では27％にearly venous drainageを認めた．一方，脂肪成分が画像検査で検出されず，組織にもほとんど認めないFat-deficient HAMLは22％に認めた．このような症例では，非侵襲的な造影超音波によるearly venous drainageの描出が診断に有用と考えられる．