Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ワークショップ 消化器4 消化管 小腸疾患の超音波診断

(S272)

門脈ガス-小腸疾患拾い上げのための1重要所見

Portal vein gas as an important sonographic finding of small-bowel diseases

石田 秀明, 長沼 裕子, 大山 葉子, 小川 眞広, 渡部 多佳子

Hideaki ISHIDA, Hiroko NAGANUMA, Yoko OHYAMA, Masahiro OGAWA, Takako WATANABE

1秋田赤十字病院超音波センター, 2市立横手病院消化器科, 3秋田厚生医療センター臨床検査科, 4日本大学病院消化器肝臓内科

1Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 2Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 3Department of Medical Laboratory, Akita Kousei Medical Center, 4Department of Gastroenterology and Hepatology, Nihon University Hospital

キーワード :

小腸疾患は消化器医にとって日常診療で常に頭を悩ませる領域である.一方,超音波検査が少量の門脈ガスの検出に優れている事はこれまでの報告で明らかである.今回,我々は,最近経験した門脈ガス例の中に小腸疾患が含まれていることに注目し,この所見が小腸疾患拾い上げに貢献できるか,これら自経例を再検討し若干の知見を得たので報告する.使用診断装置:東芝社製:Aplio500,AplioXG, GE社:LOGIQ E9,である.
門脈ガスを伴った小腸疾患例
A)小腸穿孔(1例):症例:50歳代男性.自転車運転中転倒し腹部強打.その後腹部全体に及ぶ疼痛出現し当院救急受診.CT上特記すべき所見なし.一時帰宅するも数時間後腹痛増強し再受診.超音波上,a)小腸蠕動が低下し周囲に混濁した腹水をみとめた,b)肝下面に少量の遊離ガスがみられた,c)門脈本幹中心に,門脈ガスがみられ,検査開始時はみられなかった肝実質内点状エコーも次第に出現,増量した.穿孔部位は同定困難であったが,これらの所見から小腸穿孔に伴う門脈ガスと判断した.緊急手術施行され空腸に外傷による穿孔を確認し同部の切除縫合を行った.術後経過良好である.
B)非閉塞性腸管虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia(NOMI))(2例):症例は2例とも60歳代男性でほぼ同様の臨床像を示している.腹痛を主訴に来院.生化学データは非特異的な軽度異常.超音波上,1)門脈ガスが門脈本幹-肝内門脈に分布,2)小腸の軽度肥厚と周囲の少量の腹水の存在,3)腸管ガスが多く深部脈管の観察は不十分であったが見える範囲で血流に問題なし.緊急で施行したCTでも同様の所見でNOMIと診断し緊急開腹術施行.術後の経過は順調.
考察:小腸疾患の診断に苦慮する原因として,a)上部消化管や大腸と異なり緊急内視鏡検査が難しいこと,b)特徴的な臨床所見を欠くこと,が挙げられが,同時に,c)重症化し緊急治療が必要なケースが多い,という事が挙げられる.そのため,診断は画像診断,とくにCT検査に主軸を置くことになる.このCT依存過多の主因は,超音波検査が多量の腸管ガスの存在で有効な所見がほとんど得られない,と思われていること,によると思われる.しかし,今回提示した症例に見られた様に,小腸壁の肥厚と腹水の存在は小腸病変の存在を疑う所見であるが,それ以上に,門脈ガスは超音波で容易に把握可能な所見であるため注目すべきである.小腸壁を通過したガスは,上腸間膜静脈か下腸間膜静脈を介し順行性門脈血流にのり門脈本幹を通過することがほとんどである.一方,超音波検査では門脈本幹はいかなる状況でも観察容易な箇所であること,ガスは少量でも強い散乱体となり,その移動によりさらに検出が容易となる.今後,“門脈ガスの存在”という視点を小腸疾患の早期診断に当たってみることは大きな意味があると思い報告した.