Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器横断領域1 腹部検診マニュアルの功罪

(S255)

腹部検診マニュアルの功罪 精密検査の立場から

The merits and demerits of the guideline for abdominal screening with Ultrasound: University hospital's position

飯島 尋子

Hiroko IIJIMA

兵庫医科大学超音波センター

Ultrasound Imaging Center, Hyogo College of Medicine

キーワード :

腹部超音波検診判定マニュアルは,まず,腹部超音波検診の検査法の質的向上と均質化と判定基準の共通化を目的に設定され,さらに癌検診への応用が考えられている.しかしマニュアルに沿わない独自判定をしている施設も多くこの検診マニュアルの認知度はそう高くないと感じている.
当施設にも,人間ドック施設を有するが検診判定マニュアルは採用されていない.実際の検査から精査までの流れは,超音波検査士もしくは臨床検査技師が検査を行い,静止画で保存したものを人間ドック施設の超音波非専門医師(循環器内科医1名,消化器内科医1名)が読影し,最終判定は別の非専門医師が行い(ダブルチェック目的),大学病院を含む専門科へ紹介するシステムをとる.当初マニュアルに沿った判定を考慮していたが検査士側から本来意図した内容が読影医師に正確に伝わらないことが不安であるとの意見があり現時点では見送っている.検診で異常が発見された場合,多くは専門科に送られるが,当院では超音波専門医でない医師も多く,無駄な検査が施行されることも少なくないのも現状である.
一方近隣の検診施設からの紹介の一部では判定基準が書かれている場合もある.マニュアルに沿って判定された場合の問題点としては,特に肝腫瘍が多いと思われる.患者側のデメリットと考えられるのは,判定マニュアルの中に慢性肝疾患が疑われると記載があるが,その慢性肝疾患の基準が不明確で有るための問題点と考えられる.経験例を示す.例1は,限局性肝病変で10mm程度の高エコー充実性病変で,血管腫を疑いカテゴリー2とした.読影医や最終診断医も背景慢性肝障害と疑う異常なく判定区分Bとし,数年経過し肝細胞癌であった.例2は,40mmの充実性病変を技師はマージナルストロングエコーを認めるとし血管腫を疑いカテゴリー2とした.読影医も脂肪肝はあるものの慢性肝疾患が無いとして判定区分Bとし報告書に記載して,2年後血管浸潤を有する肝細胞癌に進展した.また胆嚢病変では検査側の経験不足などが不幸な転帰をとることも経験する.明らかなメリットは判定区分があることで受診者に受診契機を促し癌の早期発見をすることであろう.
精密検査側のデメリットは,15mm以上の肝血管腫では判定基準の典型所見を欠く症例も多く,常に判定区分D2とされ何度も受診されることがある.
検診マニュアルの存在を知らず検診を行う施設も未だに多く,今後検査技師の教育のみならず検診に関わる医師の教育や検診機関への広報活動も重要と感じている.