Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器横断領域1 腹部検診マニュアルの功罪

(S254)

腹部超音波検診判定マニュアルの運用と問題点

Evaluation of Manual for Abdominal Ultrasound in Cancer Screening and Health Checkups

岡庭 信司, 岩下 和広

Shinji OKANIWA, Kazuhiro IWASHITA

1飯田市立病院消化器内科, 2飯田市立病院放射線技術科

1Gastroenterology, Iida Municipal Hospital, 2Radiological Technology, Iida Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
当院の人間ドックでは,2011年7月より腹部超音波がん検診基準(以下旧判定),2014年7月からは腹部超音波検診判定マニュアル(以下新判定)を用いたカテゴリー分類と事後指導を行っている.
今回,新判定導入後の状況と問題点につき検討したので報告する.
【対象および検討内容】
2014年7月から2015年12月の間に人間ドックでUSを施行した2712名を対象とし,①カテゴリー分類の分布,②要精検率と発見癌,③技師と判定医のカテゴリー分類の乖離,④臓器別の乖離頻度,⑤C3‘とC4‘のUS所見につき検討した.
【結果】
①全臓器のカテゴリー(以下C)の分布はC0-1.04%,C1-72.3%,C2-23.1%,C3-1.75%,C3’-0・96%,C4-0.50%,C4’-0.40%,C5-0.012%であり,C0(描出不能)の頻度は胆道2.47%(胆嚢摘出後は除く),膵臓1.11%,脾臓0.59%,腎臓0.11%,肝臓0%であった.②要精検率は5.27%であり,腎臓のC4とC5から腎癌が3例,肝臓のC5から肝細胞癌が1例発見された.③技師と判定医の乖離を16.2%に認めた.④臓器別乖離頻度は肝臓(28.0%),胆道(25.1%),腎臓(22.2%),膵臓(14.0%),脾臓(11.1%),その他(1.6%)の順となった.⑤C3‘(156例)で多かったものは,肝充実性腫瘤像42例,肝外胆管拡張18例,膵嚢胞38例,主膵管拡張12例であり,C4’(65例)で多かったものは,肝充実性腫瘤像33例,後腹膜・骨盤腫瘤12例であった.
【考察】
新判定導入後の状況を見ると,全体のカテゴリー分類ではC1-2が95.34%,要精検率は5.27%,発見された悪性腫瘍はいずれもC4,5と判定されており,運用に際して大きな問題はないと考えられる.
一方,C0は胆道(2.47%)と膵臓(1.11%)に多く,描出不良も含めると検診の大前提である病変の拾い上げに課題が認められ,ハンズオントレーニングやライブデモンストレーションといった実技を主体とした技師教育が必要である.さらに,描出不能や描出不良の定義を明確にし,事後指導の方法や新たなmodalityを用いた検診の検討も必要と考えられる.
US所見については,技師と判定医の間に16.2%もの乖離を認めていること,C3‘やC4’の中に肝充実性腫瘤像,肝外胆管拡張などが多く含まれていることから,US所見の詳細な解説や疑陽性となったUS所見の見直し(改訂)が求められる.さらに,5mm以上の膵嚢胞性病変や膵管拡張といったUS所見は癌の高危険群であるため,経時変化がなくともC3のままとすることを明記すべきである.
事後指導については,適切に拾い上げているにも関わらず二次精検で偽陰性となってしまう癌を減らすため,対象となる臓器のガイドラインに準じた精検方法を記載することが必要と考える.
【結語】
腹部超音波検診判定マニュアルの運用を進めるためには,スクリーナーの教育やUS所見の見直しに加え,C0の対処を含む事後指導の再検討が不可欠である.