Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション 消化器1 膵臓 慢性膵炎診断における超音波の役割

(S243)

体外超音波による慢性膵炎における膵周囲脈管系異常の検出

Observing peripancreatic vessels in chronic pancreatitis patients by ultrasound

大山 葉子, 石田 秀明, 長沼 裕子, 星野 孝男, 宮部 賢, 渡部 多佳子, 三浦 百子, 紺野 純子, 高橋 律子, 草皆 千春

Youko OHYAMA, Hideaki ISHIDA, Hiroko NAGANUMA, Takao HOSHINO, Ken MIYABE, Takako WATANABE, Momoko MIURA, Junko KONNO, Ritsuko TAKAHASHI, Chiharu KUSAKAI

1秋田厚生医療センター臨床検査科, 2秋田赤十字病院超音波センター, 3市立横手病院消化器内科, 4秋田厚生医療センター消化器内科

1Department of Clinical Labratory, Akita Kohsei Medical Center, 2Center of Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, 3Depatment of Gastrointnstinal Medicine, Yokote Muncipal Hospital, 4Depatment of Gastrointnstinal Medicine, Akita Kohsei Medical Center

キーワード :

【はじめに】
超音波検査の最大の利点は動的診断であり,その一つにドプラ効果を利用したカラードプラ法がある.一方膵はその周囲を脈管で囲まれており,慢性膵炎例では多彩な脈管異常が生ずる事が知られている.今回我々は,慢性膵炎例にみられた下記脈管異常のカラードプラ所見とその臨床的意義,及び超音波所見読影の際の注意点を自経例を中心に再検討し若干の知見を得たので報告する.
【使用診断装置】
東芝社製:Aplio500,AplioXG, GE社:LOGIQ E9,日立アロカ社:Ascendus
【1.仮性動脈瘤】
4例(全例アルコール多飲による慢性膵炎):全例腹痛は軽微で吐下血と高度の貧血症状を主訴に救急受診.羅患部位は,脾静脈(とその分枝)3例,胃十二指腸静脈1例で,カラードプラで2-6cm大(平均4cm)の孤立性動脈瘤を認めた.瘤内部には血流が渦を巻くように回転しており,血栓などの無血流部は認められなかった.CTでも同様の所見であった.1例において血流速度が遅く通常のカラードプラ検査では血流検出に苦慮したが,Superb Microvascular imaging(SMI)ではその描出が容易であった.全例血管内塞栓術施行をしたが,うち1例は仮性動脈瘤再発による多量出血で死亡.なお,全例吐下血と高度の貧血のため,最初になされた検査は上部,下部内視鏡検査であり,これら検査では出血原は確認できなかった.
【2.脾静脈血栓による左門脈圧亢進症】
2例(アルコール多飲による慢性膵炎1例,原因不明1例):共に,特に自覚症状はなく生化学データでも特記すべき異常はみられなかった.カラードプラでは,a)通常の条件では,膵全体が多数の脈管で囲まれ所見の読影に苦慮したがカラーゲインを下げることで,b)脾静脈内に血流は検出されず,FFT波形上も定常流で,多数の脈管はその閉塞による側副血行路(cavernous transformation of Portal Vein:CTPV)であることが理解できた,c)胃壁の肥厚とその内部に多数の結節状血流が確認でき胃静脈瘤の存在が強く疑われた.共に,その後の上部内視鏡検査で胃静脈を認め加療された.
【3.門脈本幹血栓】
2例(共にアルコール多飲による慢性膵炎):特に自覚症状はなく生化学データでも特記すべき異常はみられなかった.門脈本幹から門脈右枝にかけて血流は検出されず,多数の副血行路(CTPV:FFT波形上も定常流)がその周囲に発達していた,内視鏡検査でも問題なく,現在経過観察中.
【診断上の問題点】
1)多量の腸管ガスの存在:このため脈管描出のためのプローブの回転走査などは必須と思われた.2)慢性膵炎高度例であり膵石実質から出現する多数のtwinkling artifact:通常の条件ではその中に血流情報が埋没するため,通常よりカラーゲインや流速レンジを変更させる必要があると思われた.このような検査条件の工夫は左門脈圧亢進症による発達した側副血行路の観察にも必要と思われた.
【考察】
慢性膵炎では,その経過中に起きる急性炎症のため,仮性動脈瘤や門脈血栓が起きることが知られている.特に仮性動脈瘤は緊急治療が必要であり,慢性膵炎例では,吐下血の際緊急内視鏡検査と共に超音波で膵周囲を観察する事が臨床的に重要と思われる.そのためには平素から短時間で膵周囲に脈管系を観察できる超音波力を養成しておくことが肝要と思われる.一方,門脈血栓に関しては,その血栓形成箇所により臨床的意味が異なり,脾静脈血栓例では胃静脈瘤の存在を強く疑い診療を進める事が必要である.