Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 循環器
ワークショップ(オーディエンス・レスポンスシステム) 循環器3 定量評価の落とし穴

(S227)

左室拡張機能-定量評価の落とし穴

Pitfalls of the quantitative evaluation of left ventricular diastolic function

山田 聡, 林 大知, 中鉢 雅大, 岩野 弘幸

Satoshi YAMADA, Taichi HAYASHI, Masahiro NAKABACHI, Hiroyuki IWANO

1北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学, 2北海道大学病院検査・輸血部

1Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine, 2Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital

キーワード :

【1.E/Aとe’,E/e’】
左室流入血流のEやE/Aは左室固有の弛緩能と血行動態である左室充満圧の影響を受けて別方向に変動し,病態進行とともに二相性に変化する.一方,拡張早期僧帽弁輪運動速度(e’)は,弛緩障害で一方的に低下し,充満圧上昇でほとんど偽正常化しない.そこで,[弛緩障害で低下し]かつ[充満圧上昇で増大する]Eを,[弛緩障害で低下する]e’で除すことにより,[充満圧上昇で増大する]E/e’が算出される.初期には,E/e’と肺動脈楔入圧のきわめて良好な相関が報告された.
【2.E/e’が使えない場面の3ステップ】
(1)ガイドラインの記載事項:健常者,僧帽弁輪石灰化やMS,人工弁輪,僧帽弁置換術後,MRや収縮性心膜炎ではe’やE/e’は使えない.
(2)新たに明らかになった事項:さらに,HCMや左室拡大を伴う高度収縮障害例でもE/e’は充満圧と相関しないことが示された.論争はあるものの,E/e’は当初の報告ほど充満圧を忠実には反映しないと考えられるようになった.
(3)E/e’が充満圧と合致しないその他の例:以上を除外しても,臨床現場ではE/e’と圧データが乖離する症例をしばしば経験する.
【3.多施設共同研究SMAP】
そこで,77例でτや平均左室拡張期圧と心エコー指標の関係を観察した(Circ J 2016;80:1163).τとe’,充満圧とE/e’の相関は弱く(図),他の指標に優るものではなかった(表1,2).多変量解析の結果,左室駆出率の低下が独立してe’を低下させ,左室心筋重量係数の増大が独立してE/e’を上昇させていた.このように,収縮障害や肥大の存在がe’やE/e’の定量性を阻害している可能性が示唆された.
【4.充満圧をどのように推定するか】
2016年ASEガイドラインでは,充満圧推定において,E/e’は他の指標と同等のレベルに格下げされ,いくつかの指標を用いた多数決で結論を出すよう推奨された.上記の結果からも正しい改訂と考えられる.SMAP研究では,単一定量指標e’でτ延長を推定する正診率28%は,心エコー指標の総合評価で74%まで,充満圧推定に関する正診率はE/e’の76%から総合評価で90%まで向上した.また,定量性は高くないといっても,固有の心機能と異なり血行動態は時間とともに大きく変化するので,E/e’などの指標の経時変化から圧の変化を推定することには意義がある.さらに,E/e’の予後予測能が多くの疾患で証明されており,その意義は少しも損なわれていない.