Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 循環器
ワークショップ(オーディエンス・レスポンスシステム) 循環器3 定量評価の落とし穴

(S226)

僧帽弁閉鎖不全症-重症度評価の落とし穴

How to avoid falling into the trap of quantification of mitral regurgitation by echocardiography?

山田 博胤, 楠瀬 賢也, 西條 良仁, 佐田 政隆

Hirotsugu YAMADA, Kenya KUSUNOSE, Yoshihito SAIJO, Masataka SATA

1徳島大学病院循環器内科, 2徳島大学病院超音波センター

1Dept of Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, 2Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital

キーワード :

【1.逆流量≠重症度のトラップ】
2014年に改訂されたAHA/ACCの弁膜症治療ガイドラインで,僧帽弁逆流は一次性(器質性)と二次性(機能性)に分類され,治療方針の差異のみならず,重症度評価の基準も異なることが示された.すなわち,一次性僧帽弁逆流では,有効逆流弁口面積≧0.4 cm2,逆流量≧60 mLが重症と定義されているのに対して,二次性僧帽弁逆流では,有効逆流弁口面積≧0.2 cm2,逆流量≧30 mLが重症とされ,同じ逆流量でもそのメカニズムにより重症度評価が異なる.
【2.PISA法のトラップ】
逆流弁口が複数存在する場合,PISAの形状が半球状にならない場合,交連部近くの逸脱による逆流で血流方向と超音波ビーム方向が著しく異なる場合,心周期によって逆流方向が変化する場合など,PISA法が適応できない症例は少なくない.また,ドプラゲインやベースラインシフトの設定法,PISA半径の計測法など,正しい方法を用いないと計測値が不正確になる.
【3.Volumetric法のトラップ】
Volumetric法は,僧帽弁輪径と僧帽弁口血流速波形の時間速度積分値から求めた左室流入血流量から,左室流出路径と左室流出路血流速波形の時間速度積分値から求めた一回拍出量の差から,僧帽弁逆流量を計算する方法である.多くの項目を計測する必要があり,計測毎に誤差のリスクが積み重なる.生体内の血流速度は均一な層流でないため,サンプルボリウムの微妙な位置の差によって記録できる血流速波形が異なることもある.また,大動脈弁逆流の合併,左室流出路狭窄(S字状中隔,閉塞性肥大型心筋症など),僧帽弁狭窄の合併など,本法が適応できない症例も少なくない.
【4.トラップ回避のテクニック】
逆流の重症度を表す定量的指標は,得られた数字のみを鵜呑みにするのではなく,別の指標との整合性を確認する必要がある.たとえば,慢性僧帽弁閉鎖不全症であれば左室や左房の大きさ,急性僧帽弁閉鎖不全症であれば肺高血圧の程度と矛盾しないかなどを確認すべきであろう.また,重症と判断する場合には,E波が増高しているか,肺静脈血流速波形の収縮期波が陰転化していないか,Ⅲ音や拡張期ランブルなどの身体所見があるか,それに見合った症状を伴っているか,なども考慮したい.エコーは”a tool”に過ぎないことを常に認識しておく必要がある.