川田 貴之, 大門 雅夫, 中尾 倫子, 木村 公一, 宇野 漢成

Takayuki KAWATA, Masao DAIMON, Tomoko NAKAO, Koichi KIMURA, Kansei UNO

東京大学医学部附属病院循環器内科

Department of Cardiovascular Medicine, The University of Tokyo Hospital

キーワード :

右房圧は心拍出量を規定しており，重要な指標のひとつである．また右房圧は，近年では肺高血圧症のみならず左心不全の予後規定因子とも報告されているため，日常臨床において右房圧上昇を検出することは血行動態の評価や治療方針の決定に有用である．右房圧測定のゴールドスタンダードは右心カテーテル検査による観血的な測定法であるが，侵襲的検査であるため繰り返し行うには不向きである．よって一般的には心エコーによる下大静脈指標（下大静脈の最大径と呼吸性変動）を用いて右房圧の推定を行っていると思われる．しかしながら，下大静脈指標を計測していて本当に正しく右房圧を推定できているのか疑問を感じたことがある方も少なくないのではないかと思う．米国心エコー図学会のガイドライン，日本循環器学会の肺高血圧治療ガイドラインと複数の学会のガイドラインが下大静脈指標を紹介しているが，その基準値は異なっている．また，施設ごとに以前から使用されている独自の基準があることも少なくないし，そもそも下大静脈指標は明確な理論に基づいた手法ではないため，下大静脈指標は用いずに右房圧は一律5mmHgないし10mmHgとしている施設もあるかもしれない．
右房圧推定値の違いにこだわらなくとも日常診療に大きな支障はないこともある．ただし右心系はもともと低圧系のため，わずかな推測値の違いが大きな解釈の違いを招きうることもまた事実である．心エコーでの肺高血圧の評価は三尖弁逆流から求めた右室右房間圧較差に右房圧推定値を加えるため，肺高血圧疑いの有無が加えた右房圧推定値により左右されてしまう可能性もある．
このセッションでは心エコーで右房圧が本当に推定できるのか，現在までの報告や自験例も含めて紹介する予定である．