Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム 循環器5 負荷心エコーの積極活用(虚血以外)

(S209)

急性前負荷増大負荷エコーを用いた収縮不全心における予後層別化の試み

Prognostic impact of the preload reserve during preload stress echocardiography using leg-positive pressure maneuver in patients with heart failure

松本 賢亮, 山田 博胤, 平田 健一

Kensuke MATSUMOTO, Hirotsugu YAMADA, Ken-Ichi HIRATA

1神戸大学病院循環器内科, 2徳島大学病院循環器内科

1Department of cardiology, Kobe university graduate school, 2Department of cardiovascular medicine, Tokushima university hospital

キーワード :

【背景】
これまでドブタミン負荷心エコー図検査が心不全患者のリスク層別化のために用いられてきたが,その侵襲性や重大な不整脈などの危険性,さらには検査の煩雑さなどの問題があり,未だ広く日常臨床に広まっていないのが現状である.一方,近年前負荷増大負荷心エコー図検査が有望な負荷検査法として注目されている.下肢陽圧負荷装置を用いることにより心臓への静脈還流量を増大させ,これに対する心臓の反応性をみる負荷心エコー図法である.心不全の基本病態は,心ポンプ機能低下と臓器低灌流に基づく交感神経系およびレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に代表される神経体液性因子の亢進と,それによる総体液量の過剰とcentral volume shiftによって規定される.そのため,下肢陽圧負荷によってもたらされる静脈還流量の増加は,心不全の病態を考慮した場合,合理的かつ病態生理に忠実に準拠した負荷検査と考えることができる.しかしながら,これまで急性前負荷増大に対する心血管系の代償反応機構やその破綻のメカニズムに関しては明らかになっておらず,日常臨床に応用するためには未解決な点が多い.
【方法】
92名の収縮不全患者(平均駆出率35±9%)と年齢および性別をマッチさせた20名の正常対象者を前向きに登録し,下肢陽圧負荷装置を用いた急性前負荷増大負荷心エコー図検査を行った.前方駆出の指標としてforward stroke volume(SV)を,左室充満圧の指標としてE/e’をそれぞれ測定し,負荷の前後でその値の変化を計測した.負荷検査後の心血管イベントを280日間観察した.
【結果】
全ての対象者において,下肢陽圧負荷手技に関わる合併症なく急性前負荷増大負荷検査を行うことができた.正常対象者では下肢陽圧負荷にて,左室拡張期充満圧の上昇を伴わない(E/e’;from 10±3 to 11±3,n.s.)前方駆出量の有意な増大反応(SVI; from 50±13 to 62±17 ml/m2,p<0.001)が認められたのに対し,収縮不全患者では左室充満圧の有意な上昇を伴った(E/e’;from 15±9 to 18±10,p<0.001)わずかな前方駆出量の増大反応(from 41±13 to 44±15 ml/m2,p<0.001)が認められるのみだった.観察期間中11名の患者において心血管イベントが観察されたが,イベントを起こさなかった患者では,左室充満圧のごくわずかな変化(E/e’:from 15±10 to 17±10,p<0.01)と前方駆出量の有意な増大反応(from 41±13 to 45±15 ml/m2,p<0.001)が認められた.一方,イベント群では前負荷増大に対して左室充満圧の著明な上昇(E/e’:from 18±8 to 23±9,p=0.06)とフランクスターリング機構の破綻(SVI: from 37±11 to 36±13 ml/m2,n.s.)が観察された.下肢陽圧負荷心エコー中の前方駆出量(ΔSV)及び左室充満圧(ΔE/e’)の増大反応をもとに患者を2群に分けると,収縮予備能の乏しい患者(ΔSV<5ml)の予後は有意に悪いことが確認された(log-rank p<0.01).同様に,拡張予備能の乏しい患者(ΔE/E’ratio>3)では有意に無事故生存率が低かった(log rank p<0.01).
【結論】
下肢陽圧負荷装置を用いた急性前負荷増大負荷エコー図検査による前負荷予備能を観察することにより,心不全患者の予後を層別化できる可能性が示された.