山田 聡, 林 大知, 更科 美羽, 辻永 真吾, 岩野 弘幸

Satoshi YAMADA, Taichi HAYASHI, Miwa SARASHINA, Shingo TSUJINAGA, Hiroyuki IWANO

北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine

キーワード :

【1．ガイドラインにみる左室ストレインの正常値】
ASEの心腔計測に関する2015年のガイドラインでは，左室心筋ストレイン，特に長軸方向グローバルストレイン（GLS）の有用性が強調されているにもかかわらず，その基準値が示されていない．その理由は，現時点では装置・解析ソフトウエア間での結果の差異と，年齢や負荷条件への依存性が大きいことにある．それでも，若干の指針を示す意味で，健常者のGLS（絶対値）として20％という値が記載されている．
【2．装置・解析ソフトウエア間での差異】
左室ストレイン値に影響を及ぼす因子については十分に解明されていないが，最も根本的な問題として，装置のvendorや解析ソフトウエアによって結果が大きく異なることが指摘されている（Takigiku et al. Circ J 2012;76:2623）．
【3．計測心筋層による差異】
これらの差異のひとつの理由は，計測する心筋層の部位によるストレイン値の違いである．心筋の曲率の大きい円周方向ストレイン（絶対値）は，外層で小さく，内層になるほど増大する（Ishizu et al. Eur J Echocardiogr 2010;11:377，Okada et al. Circ J 2015;79:2471）．したがって，どの心筋層で計測し，結果をどのように処理するかの解析アルゴリズムを明らかにしたうえで結果を解釈する必要がある．
【4．年齢とストレイン値】
女性では男性よりもストレイン値は大きい．しかし，年齢依存性についてはcontroversialであり，加齢に伴い値が低下するという報告と不変であるという報告の両者が存在する（Kocabay et al. Rev Esp Cardiol 2014;67:651，Kuznetsova et al. Eur Heart J 2008;29:2014，Yingchoncharoen et al. J Am Soc Echocardiogr 2013;26:185，Kaku et al. J Am Soc Echocardiogr 2014;27:55）．
【5．心拍数とストレイン値】
一般に，心拍数が上昇するとストレインの絶対値は低下すると考えられている（Boettler et al. J Am Soc Echocardiogr 2005;18:1121）．
【6．壁応力とストレイン値】
一般に，血圧や壁応力が上昇するとストレインの絶対値は低下するといわれている（Murai et al. Heart Vessels 2016. doi:10.1007/s00380-016-0900-4）．
【7．おわりに】
現時点では，同一患者に対して，同一の装置と解析ソフトウエア，同一のトレース法を用いて経過観察を行う場合に，ストレインは感度が高く有用な方法であると認識されている．また，臨床で上記の影響要因をどのように考慮すべきかについては定まっていないが，症例によっては注意が必要である．