Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム 循環器4 心エコー図の正常値とは

(S206)

小児の心エコーの正常値をどの様に考えるか

Normal reference values for echocardiography in children.

高橋 健

Ken TAKAHASHI

順天堂大学小児科学教室

Department of Pediatrics, Juntendo University Faculty of Medicine

キーワード :

心機能は,発生から死に至るまで,時間経過とともに常に変化し続けている.このうち胎児期から成人期にかけての変化は発達や成長と呼ばれ,加齢の一種ではある,が成人期以降の変化とは全く異なる.
出生後から成人期まで心臓の成長に伴う最も重要な変化の一つとして,心臓のサイズの変化がある.心臓のサイズは成人期まで体表面積と比例して大きくなる.体表面積は新生児期の約0.2m2から3歳児0.6m2,10歳児1.0m2,そして成人の1.7m2と大変大きく変化する.大人でも加齢に応じて体格の変化は認めるが,小児の様な劇的な変化は認めない.
そのため,出生後から成人期まで,心内腔のサイズ,房室弁や半月弁弁輪径など心構造のサイズの正常計測値も成長とともに増加する.これらに関する正常値は,既に数多くの論文で発表されている.そのため,各測定値について,参考にするべき論文の具体例を示し,解説を行う.
心機能も,心臓の各サイズと同じく,成長に伴って大きく変化するものが存在するが,サイズの成長と異なり,単純な変化ではない.心臓の成長による心機能の変化は,(1)細胞機能の変化,(2)形態変化,(3)電気的活動の変化,(4)機械的機能の変化などがあげられる.心拍数,血圧も年齢と共に大きく変化し,心機能に影響を与える.
複雑さを示す例として,心機能を表す代表的な心エコーの指標である,組織ドプラー法(TDI)による房室弁輪部の心筋運動速度の正常値がある.房室弁輪部のs’は年齢に相関して増加し,常に右室s‘が左室s’よりも大きい.またe’も年齢とともに増加する.特に新生児期から乳児期早期の急激な増高は,左室拡張能の成熟を示唆すると言われている.また僧房弁拡張早期血流速度Eが動脈管開存の影響で高値となるが,前負荷の影響を比較的受けにくいe’の増高が少ないため,左室のE/e’が高値となる.その後,左室機能の成熟とともにe’が徐々に増高するとE/e`も徐々に低下してくる.しかしながら,三尖弁輪のe’は年齢による変化は少ない.
その他の心機能の指標も,年齢に応じて様々に変化する.
これら心機能を表す指標の年齢に伴う変化について,様々なデータが論文として公表されている.しかし論文の数が大変多く,論文により年齢,心拍数,体格との比較が行われており,どれを使用するべきか迷いが生じる.そのため,今回の講義では,各心機能パラメーターにおいて,具体的な文献を提示しながら,各論文の特徴の解説を行う予定である.
小児の心エコーの正常値を用いる理由は,主には心疾患の児の心エコーのデータが正常範囲内にあるのか,もしくはどの程度異常を示しているのか,患者のデータとの比較に使用するためである.それらは,しばしば治療介入の適応,手術適応,手術法選択時に使用される大変重要な指標となる.しかしながら,正常値が大きく変化するため,正確に各年齢,各体格の正常値と比較されないと,判断を誤る原因となる.
先天性心疾患においては,しばしば各心室の前負荷,後負荷が変化しており,特に心機能の心エコー上の計測値が影響を受ける.心エコーはベットサイドで非侵襲的に反復が可能であり,大変便利な日常診療のツールである.しかし直接の圧情報は得られず,心機能と前負荷,後負荷の結果として,壁運動や血流速度情報を数値化,パターン化したものであり,心機能は反映するが,心機能そのものではない.そのため,正常値を臨床で使用する場合は,心機能や負荷の変化によって,どの様に測定値が変化するかを理解しないと,臨床の場において実際に使用する事が出来ない.
以上のことを踏まえて,小児の心エコーの正常値の解説を行う.